約 774,146 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1621.html
「キョン君、少しよろしいですか?」 ん…古泉? 「話があるのですが。」 俺は古泉に呼び止められ部室に残る事になった。 …で、話とはなんだ?またハルヒの事か? また厄介事でも起きたのか? 古泉はいつもの笑顔で 「いえ、今回は涼宮さんの事ではありません。」 …ハルヒの事では無い?なんだ? 「キョン君…あなたの妹さんの事ですが…」 妹? 「はい、キョン君の妹さん…可愛いですよね」 …何を言っているんだこいつは? …ああ、可愛いな。歳が離れているから尚更な。 「いえ!そういう意味では無く一人の女性としてと言うか…何と言うか…」 …実は気付いていた…いや、気づきたくなかった… 「…古泉…お前は…」 コクン 古泉は頬を赤らめ頷いた。 『古泉はロリコンだった』 …神…神よ… …もしやとは思ったが…まさか…落ち着け…俺、俺は普通の人間よりも超常現象には耐性がある…そうだ…OK。 それにいくらロリコンとは言え同じ人類だ。コミュニケーションはとれるはずだ。 …まずは本物かどうか確かめなくては…古泉! 俺は近くの野球ボールに 【妹】 と書き古泉に突きつけた。 このボールを俺の妹としよう 「キョン君の妹…」 次に筆箱から消しゴムを取り出し 【上戸彩】 と書き同じ様に突きつけた。 この消しゴムを上戸彩としよう。 「上戸彩…」 古泉は妹と上戸彩を持ち戸惑っている。 俺は古泉に告げた。 「この上戸彩をお前の好きにしても良いぞ。」 「な!…好きにしても良いとは!?」 「口に含もうが乳を揉もうが自由にしろ」 「!!!…そんな事しても良いのですか!?…事務所的に許されるのですか!?」 …古泉は驚愕の顔でつぶやいた。 事務所など気にしなくて良い…ただし! 「???」 妹を選ぶか上戸彩を選ぶかこの場で決めてもらおうか! 「なっ!?」 …どう出る、古泉? 古泉はしばらく考えたのち答えを出した。 「えいっ!」 古泉は消しゴムを投げ捨てた! ああ…彩ちゃん …古泉はボールに頬ずりしている。 「…本物か…」 ただでさえ超能力者という属性を持っているのにさらにロリコンの属性まで求めなくても… 「、と言う事で今日はキョン君のお家にお邪魔して晩御飯をご馳走になり、お父様とお母様に挨拶をしようかと…」 断る! 「即答ですか…」 当然だ… 「そうですか…参りまたね…」 ん、暗い顔して…どうした? 「いや、実は…」 …話を聞くと銀行の手違いで仕送りが遅れていて、明日にならないとお金を下ろせない、さらに昨日から何も食べてない…という事らしい…。 …そうだったのか。 「はい、恥ずかしながら…」 これで無視する程俺は冷たい人間では無い …しかし、ハルヒの罰金で俺も手持ち金は無いし…でも家に連れて行くと妹が危ないし… ん!そうだ、ハルヒだ!あいつにもたまには団長として飯でもおごらせよう! よし、古泉! 「はい?」 ハルヒに飯をたかりに行くぞ 「…正気ですか?」 正気だ。 「涼宮さんの性格はご存知でしょう?」 もちろんだ。痛い程知ってる。 「あの天上天下唯我独尊、目の無い巨大台風、世界の中心でわがままを叫ぶ第六天魔王…等、の異名を持つあの涼宮ハルヒにですか!?」 …お前本人が居ないと思って言いたい放題だな。 「本人が居ないから言えるのです。…所でその自信…何か勝算でも…」 もちろんだ。これを聞いてみろ。 カチャ ……… 「こ、これは!?…これがあなたの武器ですか…たしかにこれならば…」 勝てる…しかし問題が一つある。 「…閉鎖空間ですね。」 それだ。これを実行すれば巨大な奴が出来るかもな… 「…たまには良いでしょう。」 は!? 「最近バイト代が減っていた所です。…稼がせてもらいましょう…」 良いのか…それで…わかった。お前の覚悟は受けとった 「…はい。」 そこにはいつもの古泉一樹は居ない。 一人の戦人がいた。 …これより我らは修羅に入る! 「…鬼に会っては鬼を切り、仏に会っては仏を切る…ですね?」 さすが古泉。よく知ってるな。 まぁ、それくらいの覚悟がいるってことだ。 「はい」 …二人は戦場に向かう気持ちで涼宮ハルヒの元へ向かうのだった。 さてどうなるのか… 今一人の少女が帰宅した。 涼宮ハルヒ これからこの少女に悲劇が訪れる…。 「ただいま~…って誰も居ないんだけどね…。」 彼女の両親は深夜まで帰宅しない。当然誰も居ないはずだった…が ガチャ 「お帰りハルヒ。」 「お帰りなさい涼宮さん。」 「…」 ガチャ 再びドアを閉めた。 「…キョンと古泉君?…幻覚ね…疲れているのかな?」 ガチャ 再びドア開けた。 「何やっているんだハルヒ?」 「お茶煎れますよ。座ってください。」 「…な…な…な…なんで居るのよあんた達!!」 「…ハルヒ、夜だぞ。近所迷惑を考えろ。」 「ちょ…どこから入ったの!?」 キョンは無言でそれを掲げた。 「人の家の合い鍵を勝手に作るなぁぁぁぁぁ!!!!!」 ハルヒは素早くそれを奪い取った。 「まぁまぁ涼宮さん、落ち着いて下さい。どうぞお茶です。」 古泉はハルヒにお茶を差し出す。 「ああ、ありがと、古泉君…」 ゴクっゴクっ 「…ふぅ~…じゃなくて!何で古泉君まで此処に居るの!?」 「ハルヒ、落ち着いて話しを聞け…」 キョンはハルヒに古泉の事情を話した。 「…んな訳なんだ。だから団長として俺と古泉に飯を奢ってくれ。」 ハルヒも少し落ち着いたようだ。 「…話しは分かったけど…別にキョンが古泉君に奢ってやっても良いんじゃない?」 「あいにく俺はお前が課す罰金で貧乏だ。」 「んっ…でも家に招待して晩御飯ご馳走するぐらい大丈夫でしょ?」 「至極もっともな意見だな。しかし切実な理由があって奴に家の敷居をまたがせる訳にはいかないんだ。」 「…切実な理由って?」 「それは禁則事項だ」 「…何よそれ…あいにくだけど家には何も無いわよ。わたしも外で済ませて来たし。」 「それは確認済だ。見事に何も無いな…」 「勝手に家捜しするなぁぁぁぁ!!!!!」 「夜だ。近所迷惑を考えろ。」 「あんたは私の迷惑を考えなさい!!…何にも無いのは分かっているんでしょ?無駄足だったわね」 「大丈夫だ。今から外でお前に奢ってもらうつもりだから」 「な!…嫌よ。わたしは奢ってもらうのは好きだけど奢るのは大嫌いなの。」 「…これを聞いても嫌と言えるか?…古泉。」 「はい。」 古泉はカセットレコーダーを取り出した。 「な…何よそれ…」 「…ハルヒ、一昨日の放課後の部室。覚えているか?」 「一昨日の放課後の部室?…たしかあの日はわたしが一番に着いてしばらく誰もこなかっ…まさか!」 キョンは邪悪な笑みを浮かべて言った。 「人と言うのは悲しいな…。暇になるとつい自作の歌を即興で作り歌ってしまう…しかもその大半がかなり恥ずかしい物だ。」 …卑劣な… 「(本当卑劣ですね…僕もキョン君を少し舐めていたようです。)」 「ハルヒ…お前に選択肢は無い。」 ハルヒはキョンを睨みつけて言った。「…わかったわよ!奢れば良いんでしょ、奢れば!ライスでもライス大盛でも好きに自由にどうぞ!」 「…まだ自分の立場が理解出来て無いようだな…古泉。」 「…はい。」 カチャ ♪~♪~ 陽気な声のかなり恥ずかしい歌が流れた。 「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!わかった!わかりました!何でも好きな物をお食べ下さい。成長期の二人は美味しいものを沢山食べないと駄目なの!」 「…古泉。」 カチャ 歌が止んだ。 うなだれるハルヒに笑顔の古泉が近づき言った。 「涼宮さん、ご馳走になります。」 「うぅ~(泣)」 キョンも近づき 「ハルヒ、素直なお前が一番カワイイぞ。」 「この鬼ぃぃぃぃ~」 …閑静な住宅街に少女の絶叫が響いた… …夜道を三人の男女が歩いている。 「ここの高級レストランに入るわよ」 「高級レストランって…唯のファミレスじゃないですか。」 「まぁ、もう歩くのも疲れた。今回は此処で勘弁してやろう。次回はもっとましな所に連れて行けよ。」 「じ…次回って…」 そんなこんなで三人はファミレスに入って行った。 … 「ご注文はお決まりですか?」 「…コーヒー…」 「俺は高い順番に上から10品。」 「良いですね。では僕も彼と同じ物を…」 「…もう好きにして(泣)」 …その後の彼ら、一人はシクシクと泣きながらコーヒーを飲み、二人は成長期らしい食欲で膨大な料理を食い尽くしていった。 (…なんでこんな事に…覚えてなさいよ、二人共…) そろそろ食事も終わりそうだ。 (あ~あ、いくらかなぁ~) ハルヒは財布を探した…が…無い。 「あ…」 ハルヒは思い出した。自宅のテーブルに置いた財布の存在を… (ヤバっ…どうしよう…) チラッ 二人の様子を見る…満腹になったせいかいつもの顔になっている。 (…怒んないよね…) 「ねぇ、キョン、古泉君…」 「なんだ?」 「なんですか?」 (あ…笑顔だ。大丈夫) 「…あのね」 「うん」 ハルヒは自分で出来る最高にカワイイ笑顔を作って言った。 「財布忘れてきちゃった…テヘッ…。」 …すると笑顔だった二人の顔が…みるみると… 「ああ!?(怒)」 「ひっ!(泣)」 「古泉!今すぐ例のテープを流せ!大音量でだ!!」 「はい!大至急!」 「嫌ぁぁぁぁ止めてぇぇぇわざとじゃ無いの~本当にぃぃぃ~」 ハルヒの必死の制止により惨事は免れた。 …が問題が一つ。 支払いをどうするか… 「…沢山食べてしまったな…」 「…食べてしまいましたね…」 「…食べたわね…」 お金がありません。ごめんなさい。 では済まない量だと三人共理解していた。 「…」 「…」 (キョンも古泉君も困っているわね…ここは一つ団長として…) 「ねぇ、ここは素直にあやま… ここでハルヒの言葉を遮り古泉が口を開いた。 「やはりこの方法しかありませんね…」 「!?…何とかなるのか?」 「…はい。」 (方法があるの!?) 「あれを見て下さい。」 そう言って指差した先を他の二人も見た。 「…幸いにも今店員は一人しか居ません。 まずキョン君…あるいは涼宮さんが店員の前に立ちます。」 「それで…」 「それでどうするの?」 「次にその店員にボディーブロウを入れるのです。…その隙に逃亡…どうですか?」 (ちょ!?それって食い逃げ…いや、この場合強盗よ!) 「ちょっと、古泉君、それは…」 「…その手があったか…」 (キョン!?) 「はい、しかしそれしか思い浮かびません。」 「上等だ…その役俺がやろう。」 「…漢ですね、キョン君流石です…」 (…正気…この二人…大体おかしいでしょ?いつものあなた達の役割は私が暴走するのを止める事…まるで逆じゃない!) …涼宮ハルヒは知らない…彼らが修羅に入っている事を。 鬼や仏をも斬る覚悟の彼らにとって店員にボディブロウを食らわすぐらい朝飯前である。 この時ハルヒの頭に最悪の光景が浮かんだ。 回る赤色灯 掛けられる手錠 「団長の…団長の命令で仕方なくやったんです!」 「そうです。僕たちは嫌だといったのに無理やり…逆らったら死刑なんです!」 (…君が団長だね?) 刑事の声 (…少年院でゆっくり反省しなさい) ガチャ(牢屋の閉まる音) ………… 嫌ぁぁぁぁ!! 涼宮ハルヒは一種のパニック状態に陥っていた。 逮捕の恐怖だけでは無い。 いつも周囲に 異常 変人 暴走機関車 等と言われ自分でも否定せずそれを受け入れ生きてきた涼宮ハルヒが、今、三人の中で一番常識人だということに気づいたからである。 二人は真剣に話しあっている。 「ボディーブロウはえぐり込むように…」 「…えぐり込む様にだな…」 一方ハルヒは 「あはは…あは…」 壊れかけていた。 (なるほど…キョンはいつもこんな感じなのね…) (…しっかりしろ!涼宮ハルヒ!あんたが壊れたら最悪の結果が待っているのよ!) (がんばれ!) 自分で自分にエールを送り気持ちを奮い立たせた。 「待って二人共!」 「ん?」 「何ですか?」 「…もう少し待ちましょう。きっと穏便にすむ方法があるはず…せめて後30分待ちなさい。」 「わかった。」 「わかりました。」 「…よし!」 涼宮ハルヒ、復活! …しかしそう都合良く見つかるはずも無く、まもなく30分たとうとしていた。 「やっぱりあれしか無い。」 「駄目よ!キョン!」 「…しかし!」 そこに古泉の声が響いた。 「…かれこれ20分ほど不愉快な視線を僕たちに向けています…もう限界です。」 「なるほど…そう言う事か…」 「…」 「はい、これは向こうから喧嘩を仕掛けたも同然!詫び料として支払い分巻き上げましょう。」 「…流石古泉だな、俺が行こう。」 「…」 「大丈夫ですか?結構強そうですよ。」 「心配するな。伊達にハルヒに付き合ってきた訳じゃ無い…体力だけは無駄についた。」 「…ご武運を。」 キョンはその男の元へ向かおうとした…そこに… 「…待ちなさい。」 ハルヒだ…。 「何だ…まさか止めようって訳じゃないだろうな?」 「いいえ、あの手の奴はここできっちり締めとくのがよいわ。 払わないなんてぬかしたら骨の一本でも折ってあげなさい。 「あ…ああ。」 …ハルヒ…やっぱりあんたも同類だよ… キョンは向かった。 「流石キョン君、早速胸ぐらをつかみましたよ!」 「がんばれキョン!」 …いや、違うの。違うの。…あのね… 「…まずいですね。素直に謝りそうな気配です…」 「キョン…失敗したら死刑よ!」 …はははは、そうだったのか… 「…打ち解けてしまった様ですね…」 「何やってんのよキョン!」 …キョンは笑顔で戻って来ました。 「…キョン君…あなたには失望しました…。」 「…もう一度行きなさいよ。このチキン野郎。」 「違う違う。古泉が行けば良いんだよ。」 「…へ?僕が?」 「…古泉君が?」 「そうだ。行ってこい。」 「???」 古泉は訳わからない様にして向かった。 「…ど~ゆ~事なの、キョン?」 「…ああ、あの男は ホモ なんだ。」 「…ホモ?」 「ああ、どうやら古泉に一目惚れしたみたいで…あの視線は熱い視線だった訳だ。」 キョンは手品の種明かしをするかの様に語った。 「…で支払いはどうするの?」 「大丈夫だ。事がすんだら古泉に渡すらしい。」 「…事って…まさか!」 …そして古泉は。 「…僕に用ですか?」 「…かわいい。」 「…何故僕の股間を弄るんですか?」 「…さぁ、トイレに」 「キョン君!、涼宮さん!助けて下さい!この男何かを狙っています!」 「(お前の肉体なんだよ(泣))」 「(あなたの肉体なのよ(泣))」 「キョン君!…何電話掛けるフリしているんですか!?それどう見ても電話じゃ無くてあなたが今履いてた靴でしょう!」 「…ああ、つぎの商談は…ああ、そうだ。」 「涼宮さん!テーブルの下に頭突っ込んで何やってるんですか!」 「プーさんでしゅ。プーさんでしゅ。蜂蜜食べたいでしゅ」 「助けて~…」 …古泉はトイレに消えて行った。 「許せ!古泉(泣)」 「許して!古泉君(泣)」 …なんて薄情なやつらだこいつらは… ~30分後~ 「コーヒーおかわりください。」 「わたしも。」 …二人は古泉をまっていた。 コーヒーを飲みながら… ガチャ …トイレからフラフラになった古泉が出てきた。 「古泉!」 「古泉君!」 …古泉がゾンビの様に近づいてきた。 「…キョン君…涼宮さん…」 「遅かったな。」 「心配したのよ。」 …二人は額に汗をかいています。 「……僕…汚れて…しまいました…」 … (古泉(泣)) 二人は涙を流しながら古泉に近づいた。 「痛みに耐えて良く頑張った!感動した!」 「あなたはSOS団の誇りよ。終身名誉副団長の称号を与えるわ」 「…ところであの男から何か受け取らなかったか?」 「…ああ…これを…」 古泉はそれをキョンに渡した。 テレホンカード…一枚 「…テレホンカードか…しかも50度数…(涙)」 「…こんな物の為に古泉君は…(涙)」 …古泉一樹… テレホンカード(50度数)一枚で純潔を失った男となる。 「…しかし…僕は悟りました…大切な物はお金ではありません…本当き大切な物は…」 「?」 「?」 古泉は頬を赤く染めながら言った 「…太くて大きい物…です。」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「いやぁぁぁぁぁ!いぁぁぁぁ!!!!」 古泉はクラスチェンジした…ロリコンからホモになった。 「駄目だ!!行くな!!」 「そっちにいったら駄目ぇぇぇ~」 …何て事だ…まさかこんな事になるとは…古泉!お前はホモじゃ無い…ロリコンだ! 「…ロリ…コン?」 そうだ、心配するな。俺にまかせろ。必ず何処に出しても恥ずかしくないロリコンに戻してやる。 「…古泉君…ロリコンだったんだ…」 …ハルヒは少し引いてしまったようです。 「古泉、美人OLの脱ぎたてパンストと小学四年生の脱ぎたてブルマ…どっちが良い?」 「…ブルマ…」 「そうだ!…次、ビキニの水着とスクール水着…どっちだ?」 「…スクール水着…」 「最後だ!…上戸彩と俺の妹…どっちだ?」 「キョン君の妹…です。」 「古泉ぃ~」 キョンは古泉に抱きついた。 「思い出せ!お前は俺の妹(11)が好きなロリコンんだ!…思い出せ…」 「僕が好きなのは…キョン君の妹…」 …古泉の瞳に段々と光が戻ってきました。 「…キョンくん…」 「…何も…何も言うな!…くぅ~涙が止まらない。」 ふと隣をみるとハルヒも涙でクシャクシャです。 「…ひっく…古泉…君…お帰り…なさい。」 …いつまでもこうしていただろうか… 事象をよく知らない周りの人達がもらい泣きを始めそうなころ再びキョンは口を開いた。 「古泉、最後にもう一度お前の好きな人の名前を聞かせてくれ」 古泉は照れながらいいました。 「キョン君の…妹…」 キョンは涙を流しながら再び 「声が小さい!もっと大きな声でだ!」 彼はうなずき大きな声で言った。 「キョン君の妹…の」 の? 「の?」 「の?」 「…お兄ちゃん」 キョンの妹(キョン→妹) の お兄ちゃん(キョン←妹) 「…い……いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 キョンの絶叫が響きました。 「…古泉君…戻ってこれなかったのね…(涙)」 古泉は頬を赤くそめキョンにちかづいていった… 「キョン君…」 「ひっ…ひぃ~」 「キョン君…」 「…やめろ…俺を恋する乙女の目で見るな…」 どんどん追い込まれていきます。 (…このままでは…犯られる…) その時です。 「古泉君!あっちにふんどし締めた美少年の集団が居るわよ!!」 「なんですって!!」 古泉がハルヒの言葉に騙された。 (今よ!キョン!!) (…すまないハルヒ…お前がくれたこの一瞬…無駄にはしない!!) キョンは素早く古泉の後ろに回り込み…これは…これは… ジャーマンスープレックスホールドだぁぁぁぁ!! グキ 「はぁ、はぁ、」 キョンは完全に気絶した古泉に向かい呟いた。 「すまない…こうするしか…こうするしか無かったんだ…」 「しかし…ロリコンからホモになるとは…」 「超サイヤ人3もびっくりな変身ね…目覚めた時またいつもの古泉君に戻っていると良いわね…」 「ああ…心から…心からそう願うよ…」 …その後店の店長から 「お代は結構ですから二度と来ないでください。」 といわれ三人は追い出された。 「…結局払わないで良かったな。」 「…結果オーライってやつね。」 二人は堅く手を握りあった。 「ところで…」 「うん…これどうしようか?」 もちろんこれとは古泉の事である。 「キョンのうちに泊めてあげれば?」 「馬鹿言うな!記憶が戻っていたら妹が、戻ってなかったら俺が危ない。」 「…放置しとく?でもここらへん野犬が出るとか…」 「…古泉なら多少野犬にかじられても大丈夫だろう。」 「…そうね。ところでキョン、送ってくれるんでしょうね?」 キョンは苦笑いをして答えた。 「お姫様がお望みなら…」 ……って所で夢から覚めたのよ。 放課後、ハルヒは昨夜見た奇妙な夢のはなしをしていた。 朝比奈さんはポカーンとし、キョンは苦笑いをし、古泉は笑顔をひきつらせて聞いていた。 「んで感想は?…みくるちゃん?」 「え…感想ですか?…古泉くんはどうですか?」 「…この話で僕に振りますか…」 こめかみのあたりがピクピクしています。 「有希、どうだった?」 「…ユニーク」 おしまい。
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/108.html
彼女との出会いは、この部室に彼女が押しかけてきたことであった。 当初の予定では、私は観測対象である涼宮ハルヒと距離を置いて、つまり、 人間関係としての接点を持たずに、第三者的な観測を行う予定であった。 直接接触は、バックアップ、つまり朝倉涼子の役目であった。 そのために、もっとも涼宮ハルヒが近づかないであろう「文芸部」の、唯一の部員 というポジションを設定したのだ。 情報統合思念体ですら予想していない事態であった。予想していたら、 私に書道部にでも入るように命じていたに違いない。 昼休みに文芸部室で読書をしていると、いきなり扉が開いた。 この部屋に第三者が近寄る確率を下げていたはずなのだが。 「よし、誰もいないわね」 扉の外から部室を覗いて、彼女は不躾にもそう言った。その時私は、 本棚の後ろにいたのだ。 「なにか用?」 眼鏡越しに、闖入者に視線を向けた。 「あら、ごめんなさい。文芸部って人がいないっていうから見に来たのよ」 そこにいたのは…観測対象、いや、涼宮ハルヒだった。 予定外の事態に、情報統合思念体にリンク。指示を請う。 『観測せよ』 返答はそれだけであった。つまり、私を通じて推移を見たいということだ。 「私は文芸部の部員。なので、部員は存在する」 「そうなの、あなた、一年生?」 彼女は、本棚と、そこにぎっしり詰まった本と、折りたたみ机と、私の分のパイプ椅子しかない部室を 見回してから言った。 「そう」 「私も一年よ。ねえ、この部屋くれない?」 …意味がわからなかった。 「入部するならこれを書いて提出」 きわめて一般的な反応をしてみせる。観測対象との直接接触は、バックアップの役目のはず。 つまり完全に予定外だ。 「入部したい訳じゃないのよ。この部室が欲しいの」 部室というのは、「くれ」「やる」でやりとりすべきものではないはず… …だったはずだ。自信満々、当たり前のこととして言う彼女を前に、判断が揺らぐ。 「ここは文芸部室。私という部員がいるので、文芸部が占有している」 彼女は、少し考えるそぶりを見せた。そして、今読んでいる本の表現を借りると、 「チェシャ猫の微笑み」をみせて、 「じゃあ、あなたもいっしょにもらえばいいのね」 はぁ? 手から本が落ちた。それよりも、私は、自分があっけにとられて「はぁ?」という 反応をするとは思っていなかった。それは、むしろ朝倉涼子の担当する範囲ではないのか。 「あなたが私のモノになれば万事解決ね。ああ、あなたって呼ぶのも変だから、名前教えて」 「長門有希」 「私は涼宮ハルヒよ。有希って呼んでいいでしょ?」 知っている、とは言えない。かわりに、じっと彼女を見た。なぜ、彼女は顔を赤くしたのだろう。 「かまわない」 「それで有希、私のものになるわよね」 強引だ。一般的な反応であれば、断るか怒るかだろう。 「今この部室を使っているのは私ひとり。なので、使うのはかまわない」 観測に都合のいい方で応じた。部室でなく私を要求していたが、部室の要求の言い間違いと判断するのが 妥当であろう。 「ありがとう、これで本拠地が決まったわ」 いきなり抱きつかれた。涼宮ハルヒの体温を観測…と、何をしているのかと自問する。 だが、こうやっていると、第三者的観測で得られない情報が多く得られる。 体温。におい。触感。だきしめられるというのはどういうことか。 もう少し情報を獲得しよう。 私は、観測対象の背中に手をまわした。彼女は、それを何かの合図と思ったのだろうか。 「あ、ごめんなさい」 体をはなす。だが、手が私の顔に向かってのばされた。 「眼鏡、ずれちゃったわね」 彼女の手で眼鏡が直されるまで、私は、眼鏡がずれたことに気が付いていなかった。 「じゃあ、放課後にまたくるわね」 彼女は、入ってきたときと同様、疾風のような勢いで部室を出て行った。 なぜか、放課後が待ち遠しくてたまらなかった。 「へえ、涼宮さんがあなたのところに行ったの」 帰宅後、朝倉涼子と観測方針の調整を行なった。彼女は、 このような調整を行う際に、毎回何らかの料理を持参ずる。そのため、調整は 常に、食事を行いながらとなる。 「確認したところ、私も直接観測を行うよう命じられた」 「…そうなんだ」 朝倉涼子の目がしばし泳ぐ。涼宮ハルヒと私の接触状況の情報を受け取ったのだろう。 「…いきなり抱きつかれたんだ」 「予想外だった」 「そうね。そのわりには、積極的に観察しているのね」 今後の観測方針を調整するはずが、ただ無言の食事となった。
https://w.atwiki.jp/niconicomugen/pages/301.html
「ただの人間には興味ありません。 この中に宇宙人・未来人・異世界人・超能力者がいたら あたしのところへ来なさい。 以上!」 【巨大ハルヒ】 谷川流のライトノベル『涼宮ハルヒシリーズ』のヒロイン。「すずみや-」。 容姿端麗、才色兼備、頭脳明晰、文武両道と、見た目や能力だけなら欠点の付けようがない女子高生だが、 その人格は唯我独尊、傍若無人でとてつもなく破天荒。 普通と退屈を極度に嫌い、とにかく既存の枠組みに縛られない行動を起こす。 そんな突拍子もない性格だが、実は非常に理知的であり、理解した上で敢えて理不尽な振る舞いをしている。 こういう非常にハタ迷惑な内面のおかげで、周囲からは近寄りがたい存在と思われ孤立していた。 ちなみに冒頭の「 宇宙人 ・ 未来人 ・異世界人・ 超能力者 が~」は高校入学初日の自己紹介での台詞。 実際、ハルヒのお眼鏡に適う相手以外はまったく相手にしようとしないが、 興味を抱いたり、馬が合う相手は大事にするという面倒見の良い面もある。 また、見ず知らずの他人に同情して代役になる事を提案した事もある。 時と場合によってはちゃんと礼儀正しい態度を取る事もあり、常識と非常識を併せ持つキャラと言える。 つまらない世界を変えるために高校でサークル「SOS団(世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団)」を立ち上げて団長に君臨し、 ヒロインであるにも拘らず主人公(キョン)達を振り回すトラブルメーカー的存在。 彼女の起こした問題を他のSOS団メンバー達が解決するのが常となっている。 初期の頃は朝比奈みくるを利用して、 ヤクザ顔負けの自作自演の罠で恐喝する事でSOS団に欲しいものを強奪する(パソコン部の最新のパソコンをタダで強奪した)など、 ギャグにしてもクスリとも笑えない事もしていたが、後の作品では上記のように破天荒ではあるものの、 最低限の礼節とTPOはある程度弁えられるキャラになっていった。 破天荒な行動の原因は昔の思い出にあり、その時感じた不満が作中では「憂鬱」と表現されている。 性格の変化はこの時感じた不満が解消され始めてきているため。 + その正体、といっても彼女自身は知らない事 その正体は「涼宮ハルヒの憂鬱」世界の神(かそれに近い存在)。 原作ではまだ正しい正体は明らかになってはいないのだが、世界は彼女が三年前に創造したという見解があり、有力な説の一つ。 本来は一巻完結で続編予定の無かった作品なので、当初はこれが真実だったのだと思われる。 + だって一巻は…… 『涼宮ハルヒの憂鬱』というタイトルから分かるように、 思春期の女の子(ハルヒ)の憂鬱(葛藤ややり切れない気持ち)を描いた作品だったのである。 特別な事を諦めてしまってそれでもそれなりに楽しくやっている少年(キョン)が、 特別な事を本当は諦めているのにそれを追い求めずにはいられない少女を、 その突飛な行動に振り回されながらどこかその気持ちに共感しつつ、 周りに呆れられる事も厭わずに大胆に行動する様子を羨ましく思いつつ見つめるという筋書きに、 その実、何か特別な存在になりたいと願っていた少女はこの世の神だったというとんでもない真実が明かされ、 その精神世界を垣間見る事で彼女の苦しみを知り、特別な事など何もない世界を崩壊させようとするハルヒに、 キョンが元の世界(特別でない日常)も面白いんだと教えてやる事で結末を迎えるのである。 自分が作った団体に無意識の内にSOS(救援信号)の名前を付けるなど作品のテーマを表す仕掛けも多く見られる。 特別とは大勢の中のたった一人に与えれられるものではなく、個人一人一人に存在しているものだというメッセージが伝わる名作である。 現在は続編が語られる事でSFの要素が強くなっているが、仄かに垣間見られる恋心も合わせ優れた作品に仕上がっていると言えるだろう。 ……が、現在は様々な説が作中で提起されている。 自分が心の底から望んだ事をあらゆる法則をねじ曲げ実現する世界改変の能力を持つ。 だが実際の所この能力の正体は不明であり、「ハルヒが望んだ事が実現する」のではなく「ハルヒは望んだ事を無意識の内に叶えている」が正しい。 上記の説が正しいとするならば世界はハルヒの見ている夢のようなものという事になるので、その夢を自覚されると世界が崩壊しかねない。 現実を改変するというより「現実」はハルヒが作るものなのである。 この説を(当初は)裏付けるように彼女には世界を破壊し創造する能力がある。 ハルヒが世界を失敗作だと思えば神人と呼ばれる青い巨人が現れて世界を破壊し尽くしてしまう。 この巨人はハルヒの精神状態を反映したもので主にイライラが具現化したものだとされる。 様々な法則の範囲内でしか行えない長門有希の情報操作能力と違い、 法則・ルール自体を書き換えてしまうという正に反則的な能力と言える。 ただし、たまたまそういう能力を持っているだけであって、ハルヒ自身の身体能力等は常人よりは優れている程度である。 宇宙人・未来人・超能力者が彼女の側にいるのは、彼女がそう望んだため。 そんな状況下にあっても世界がおおむね現実的で平穏なのは、 彼女の芯である理知的で常識人の部分が「世の中に非現実なものはない」と理解している(思い込んでいる)ためである。 もっとも、彼女自身はこの事を知らず、もちろん全くコントロールできない。 そのため、また、それでなくとも普段の言動にインパクトがあり十分に個性的という事もあり、 二次創作などにおいては、「ハルヒ自身の能力」と認識されていない事も多い。 また、本人が自覚していない事に加えて、SOS団メンバー達はそれを自覚させないように秘密裏に行動している事もあって、 作中では異変が起こっても解決の場から遠ざけられてしまう事が多く、ハルヒだけが蚊帳の外状態になる事がとても多い。 中心人物なのだが、ハルヒだけが平穏で周囲は大騒動という正に台風みたいな扱いをされている。 おかげで事件解決の直接的な功労者である長門に人気を食われていたりするが、それでもヒロイン(笑)扱いされる事が無いのは流石と言える。 むしろラスボス兼主人公と認識されている節さえある。 知らず知らずの内に世界を改変してしまったりするため、どこまでがハルヒの能力なのかという事でしばしば議論が起こったりする。 異変が無い日常的な回でも出番が全く無かった事もあったが 後述するMUGENのハルヒ達もその能力を積極的に生かす事は無いようだ。 もっともこの能力、再現しても不利な時に相手をMUGENごと終了できるレベルなので、 ある意味しょうがない、とも言える。神の能力だし。 というか、元々彼女が創造した世界でないMUGEN界でそれが適用されるのかがそもそも疑問である。 が、別作品を含めるとこの手の願望を実現化する能力や現実改変能力を持つ人は結構いたりする (この人とかこの人とか。この界隈だと中堅上位程度のキャラは標準装備)。 人気作のヒロインであるため支持するファンも多いのだが、一方で、上述した賛否両論が分かれる性格(特に初期の)故に、 彼女に難色を示す人も多く、ニコニコニュースが行った悪役以外で嫌いなアニメキャラのアンケートでは二位に輝いている。 ちなみに他のトップ3だが、一位はハルヒと大体同じ理由だがソレに加えて主人公や他のヒロインへの暴力など猟奇性が目立ち、 三位は人の話を聞かずに突っ走る割に好きな人の前ではうじうじし過ぎ等の意見があり、ハルヒと似通った要素とヤバさを持っている。 ハルヒはその独特の作風やキャラ性から高い人気を博し「現実改変能力者の代名詞」のように言われる事もあるが、 実の所こういった「全能の力を有しながら、モラルのセンスの全く欠如した“子供”のような“神”の支配する世界」 というプロットはずっと古くから存在する。 古典SF・ホラー・ファンタジーの世界ではお馴染みの『トワイライト・ゾーン(TWILIGHT ZONE)』では、 「It's a Good Life(邦題:日々是好日)」というエピソードにおいて、 ハルヒ同様の能力を持つが自制心と倫理観の欠如した「アンソニー」という名の少年を描いている。 何でも思い通りにできる能力を持ち、それを好き勝手に行使できる存在がいたとしたら、全宇宙が迷惑するのは至極当たり前の事だろう。 現実の宗教において神が人から崇められているのは神様が人前に姿を現わさないからである事をよく考えるべきである。 ある意味では創作物の主人公を考えるに当たって最も参考になる反面教師であるので、 これからヒーローやヒロインを考え出そうとしている作家の方々は、ハルヒというキャラクターを今一度見直してみてはいかがだろうか。 また、ラノベ界三大ツンデレの一人とも呼ばれ(他二人は『灼眼のシャナ』のシャナ、『ゼロの使い魔』のルイズ)、 ツンデレキャラとして認識されている事が多いが、実際の比率はツン9:デレ1くらい、 しかもデレと言うほどデレていないというツンデレを安売りしないヒロインだったりする。 と言うか、本当にツンデレなのか怪しい所もあるが、この手のカテゴライズによくある事なので深く追求してはいけない。 + 『ハルヒちゃん』版のハルヒについて スピンオフ作品『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』では原作以上に皆(特にキョンとみくる)を振り回しているが、 その様子から原作者である谷川流氏に「ハルヒよりもハルヒっぽい」とまで言われている。 一方で、キョン不在時に長門やみくるが暴走しているときは止め役やツッコミ役に回っており、「根は常識人」という設定も上手く活かされている。 また、ある話においてはキョンはおろか、原作では口答えしない長門、みくる、古泉にまでマジギレされて心を折られた。 キョンに対してはやはりそれなりの想いがあるらしく、キョンがとある理由から古泉に「好きだ」と言った際は倒れてしまった。 その際に「特大」の閉鎖空間ができた模様、しかも長門曰く「かろうじて涼宮ハルヒの理性が勝ったが世界の終わりも十分ありえた」との事。 因みに後々キョンがバニーになった時にはこれ以上の「過去最大」の閉鎖空間ができたらしい。 またこの作品では閉鎖空間ができる頻度がかなり多く、酷い時は一日で三回 (蝋燭の火を不可思議な力で消すのに挑戦して500回失敗、その行動が無駄な事に気付いた、プリンが買えなかった)と機関(主に古泉)を疲労させている。 また神人も個性豊かであり、ヒーロー物の悪役のように喋りだす奴や、 スピンオフ短編「古泉一樹の過去」では神人の撃破にやってきた超能力者を狙う神人というのも登場している。 無意識に現実改変を行う頻度も高く、月に超科学力を持った兎が出現したり、 谷口が鬼や狼男になってしまったり、格闘ゲームが音声入力可能になったりしている。 また、キョンが冗談で「母さん」と呼んだ時、酷く動揺した上に「だったらお前は父さんだ!」と叫んでいるなど、原作よりもデレの割合が強い。 そしてある回では古泉の陰謀でキョンと1日デートする羽目になり、お互いに精神的に深いダメージを受ける事になった。 …その次の回では、キョンと一緒にいた所を「カップルですか?」と言われて「「違います」」と2人して即答する。 もう夫婦の領域じゃないのかとか言わない。 同作アニメ版のOPテーマ「いままでのあらすじ」ではキョンに対してテンプレなツンデレとなったハルヒを見る事が出来る。 + 『長門有希ちゃん』版のハルヒについて ハルヒちゃんのスピンオフ作品『長門有希ちゃんの消失』では第一巻の終盤回想シーンから登場。 文芸部廃部の危機に動揺する長門の前に現れ、初対面の彼女に「サンタへのメッセージ」を描かせる傍若無人ぶりを見せる。 しかし、長門はその貪欲な姿勢に背中を押されており、結果的に文芸部存続の立役者となった。 その後、クリスマス深夜に公園で野宿を敢行。凍死しかけていた所を長門とキョンに救助され、彼らと交流を始める。 以降は他校生にも拘らず「北高文芸部ミステリー部門本部長」を名乗って、文芸部に入り浸っている。 超常現象の存在しない本作ではハルヒも神ならぬ「普通の人間」に過ぎないため、部内での扱いは割とぞんざい。 他校生なので登場しない話も多く、最重要エピソードの『長門有希ちゃんの消失』編でも殆ど登場しなかった。 キョンに対する好意を持っていたようだが片思いに終わり、長門とキョンの恋の成就を苦笑いしながら見守っている。 結果、スピンオフとはいえサブヒロインに先を越された稀有なメインヒロインとなってしまった ただし、ハルヒ自身は原作よりも空気が読める性格になっており、要所で他人への気遣いを見せるイイ女となっている。 また、原作ではあまり絡まなかった朝倉涼子と仲が良く、朝倉が暴走した時はハルヒがツッコミ役に回る珍しい姿が見れる。 ちなみに中国語圏内では「涼宮春日」と書かれる。間違っても「ハルヒ」を「かすが」とは言わない。 また、北京オリンピックのパンフレットに彼女を真似たと思われるあまりにも出来の悪いパチモンが描かれた事があり、 そちらはネット界隈では涼宮哈爾濱、もしくはハルビン等と呼ばれている。 また、第一話で彼女が提示した宇宙人・未来人・異世界人・超能力者の内、 異世界人だけが登場してないため、谷口や鶴屋さんなどの脇役が実は異世界人だったというIFストーリーが書かれたり、 他の作品のキャラクターを異世界人として登場させたり、幻想入りをはじめ自ら異世界へ旅立つ等の方法で、 同人誌やSSやニコニコ動画のMAD等で二次創作が多く作られている。 前期に述べた非現実的なものは信じない設定があまり知られてないのか投げ捨てられているのか、 妖怪や英霊(サーヴァント)を召喚したり、吸血鬼や魔法少女と戦う作品もある。 有名なものでは『ゾイド』の漫画版で知られる上山道郎氏がドラえもんを題材とした漫画『のび太の終わらない夏休み』を描いている。 公式でもDMM GAMESにて配信中のエロソシャゲ『神姫PROJECT』ともコラボ(ただしエロNG)。 2018年のゴールデンウィーク期間中、ニコニコ動画では『涼宮ハルヒの憂鬱』の無料配信があったのだが、 その際、「団長」繋がりかハルヒが何かやらかす度に「何やってんだよ団長!」のコメが飛び交う事態となった。 MUGENにおける涼宮ハルヒ MUGENでの彼女の技も、上記の設定や劇中のネタを生かしたものになっている。 チョイヤー氏と汚レ猫(現・にゃんちゃ)の2種類が確認されており、どちらも手描き改変ドット。 一時期両者共に入手不可能となっていたが、にゃんちゃ氏のものは2018年5月に再公開された。 また、2017年12月26日よりゆ~とはる氏がチョイヤー氏のものの改変版を公開していたのだが、現在は公開を停止している。 + チョイヤー氏製作 チョイヤー氏製作 氏のホームページが閉鎖したため現在入手不可。 また、このハルヒを基にした改変版も存在する(後述)。 立ち絵や通常技などは『MELTY BLOOD』に登場する複数の女性キャラのドットをベースにしている (立ちニュートラルがアルクェイド、ダッシュがシオン、遠立ち強攻撃がシエル、ジャンプ強攻撃が秋葉、しゃがみ弱攻撃がさつき…など)。 AIは程良い強さ。対人用か対AI用の2タイプに設定可能。ストライカーとして長門、みくるの他に、 こなた( 声優繋がり )や他社のラノベキャラ( 絵師繋がり )を呼び出してたり、 桜高軽音部のみんな(京アニ繋がり)と「God knows...」を演奏したり、どこぞの元傭兵みたいな必殺技を披露したりする。 ちなみに元傭兵風の技は更新でブリス技に。つまり部室内で相手に無理やりコスプレさせている事が判明した(要するに原作でみくるにしたアレである)。 どこぞの元傭兵とは違うのだよ! また上記の涼宮ハルビンをバイトとして雇ってもいる。なお、ハルビンの声は『はぴねす!』の神坂春姫(演 榊原ゆい)である。 イントロや勝利ポーズで様々なコスプレを披露してくれるので、視聴者の目を楽しませてくれる。 ブリス技をはじめとした、特殊やられにも対応している。 脱衣KOをオンにしていると下着も脱げてしまう(靴下は残る)ため動画作成の際は必ずオフにしておくように。 また、おもらしKOなんてのもあり黄色い液体も出る。当然、動画作成では必ずオフにしておくように。 また、かつてはsff切り替えで勝利時の変身やミッドナイトブリスを全裸にする事もできたが、2010年7月24日の更新で廃止された。 2011年6月30日の更新で新MUGENの勝利デモに対応、ライブ アライブに専用ゲージがついた。潰されるとそれまで溜めていたゲージを全て消費する仕様に。 2013年1月31日の更新でゆ~とはる氏のマミヤの「さようなら」、同氏の縁寿のメタ返しに対応。新MUGENでの勝利セリフも増えた。 そして、通常投げからの追加入力やショウリュウメガホンからの追加入力で額に肉の人のフェイバリットホールドも習得。 2月24日の更新ではSOSアタックでブリスやられを表示するようになった。 新MUGENでは『haruhi.def』、WinMugenでは『haruhi_win.def』と登録すれば両方のバージョンで使用できる。 間違って新MUGEN用のdefをWinMugenで使うとブリスやられが表示されず、キャラが点滅したり消えてしまう。 3月10日の更新ではジェダ・ドーマのサングェ・パッサーレに対応したが、ぽろりしているため動画に使うのは厳禁なので注意。 ちなみにチョイヤー氏はハルヒより他社のラノベキャラの方が好きらしい。 是非とも製作して頂きたかったがキャラ愛のあまり製作に至れなかったのだとか。 そのあおりを受けてか、更新でフレイムヘイズ召喚の性能が大幅にアッパー調整され、召喚中はハルヒが無敵状態になるように変更された。 以前のバージョンでは召喚してからシャナが登場するまでにかなりのタイムラグがあったため潰されやすい技だったのだが、 現在は先述の通り無敵時間がついたためほぼ潰される事は無く、さらにシャナは相手の位置をサーチして突っ込んでくるため回避は困難。 しかもガード不能でダウン追い打ち属性まで付いている。これを1ゲージ消費で呼べるのだから、フレイムヘイズの面目躍如である。 遠距離戦主体のキャラと戦わせると、ひたすらゲージを溜めてシャナを呼びまくるというどっちがメインのキャラだか分からない事態に陥る事も。 これじゃ「あたしに力を貸して!」じゃなくて「あたしの代わりに戦って!」だよ。 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな 召喚の際にメロンパンを掲げるのだが、畳やコートと違ってメロンパンの錬金術師と呼ばれる事はなかった。 カラーパレットも豊富で声優ネタやラノベ繋がり、中にはハルヒをパロディしたゲーム(R-18)のキャラクターになり、 デフォルトのカラーも下着の色違いが3種類(白・橙・ミント)入っている拘りよう。 黒or金一色になるカラーもあるが性能面に違いはない。 余談だがアニメ版の『らき☆すた』では飲料水のCMでハルヒがゲスト出演してたり、 アルバイトでこなたがハルヒのモノマネを披露したり自室にみくるのフィギュアが飾られている等ハルヒ絡みのネタが多く、 それを意識してかハルヒ達が『らき☆すた』のキャラクターっぽくなるカラーもある。 長門は声繋がりで岩埼みなみ、みくるは作中で彼女のコスプレをしていたパティ、 ハルヒは黄色いリボンという共通点から柊つかさの配色になる。ちなみに、こなたは髪の色が原作寄りになっている。 T's氏と柊竹梅氏もいくつか製作している。 ストーリー動画にも多く登場ているが、何故かそれ以上におっぱい関連の大会への出場が多い。 上記のけしからん要素のせいであろうか 一応、健全な大会では人間弾幕チームとして春日舞織やキャプテンコマンドーと組んだり、 薫やこなたとCV平野チームを組んだり、SOS団として大将を務める事が多い。 ちなみにタクアン和尚との専用イントロもある。 + 汚レ猫(現・にゃんちゃ)氏製作 汚レ猫(現・にゃんちゃ)氏製作 一時期公開終了していたが、2018年5月に再公開された。 やはり『MELTY BLOOD』の女性キャラのドットをベースにしている。 システムも『MB』に近付けてあり、アークドライブとアナザーアークドライブも実装されているが、ラストアークは未搭載のまま製作終了。 同氏の製作した他のキャラにもストライカーとして搭載されている。 + ゆ~とはる氏製作 ゆ~とはる氏製作 2017年12月26日公開。 チョイヤー氏製作のハルヒを氏の了承で改変したもので、正式名称は「超改変版・涼宮ハルヒ」。 試合開始前に「A」or「B」のどちらかのモードを選択可能で、 「Aモード」がオリジナル版のチョイヤー氏準拠、「Bモード」がゆ~とはる氏独自のアレンジ版となっている。ちなみにデフォルト状態は「Bモード」。 残念ながら、現在は公開を停止している。 超改変版というだけあって、とてつもない量の追加要素がある。 長門、みくる、こなた、シャナ等の各ストライカーにクライマックスアーツが搭載、ライブアライブのアンコール発動(追加入力)、 放課後ティータイムの楽曲追加等のオリジナルからある技のほとんどが何等かの追加・変更がある。 他に、閉鎖空間(ハルヒと佐々木の2種類)の搭載、古泉の超能力、キョンや朝比奈みくる(大)によるアシスト、 宇宙人・未来人・超能力者を次々と呼び出す技「ただの人間には興味ありません」、 条件が揃うと発動可能になる自爆技「涼宮ハルヒの消失」等ハルヒならではの追加要素も充実。 さらに原作小説の最新刊である『涼宮ハルヒの驚愕(後)』までの要素が搭載されており、 ヤスミや佐々木、藤原、周防九曜、橘京子等の対極者達の演出も搭載されている。 システムは電撃文庫 FIGHTING CLIMAX仕様となっており、メタ世界(閉鎖空間)、援軍(古泉召喚)、 北斗七星ゲージ(一撃必殺技)等他ゲームの要素も多い。 特筆すべき点は何と言っても、莫大な数の特殊やられ対応技を搭載している事であろうか。 謎ジャム、王家の裁き、メタ返し他、既存の特殊やられが各種ボタンで次々と表示できる技もある。 簡易的な特殊やられチェッカーにも使えるという氏の宣言通り、大体の特殊やられ対応が手軽に確認できる。 既存の特殊やられの他、バットでホームランされ画面奥に吹っ飛んで星になったり、ライブのアンコール演出で好きな楽曲を演奏する技、 スーパーロボット大戦風の戦闘演出他多数のハルヒ独自の特殊やられ対応も充実している。 イントロ開始時に相手によってSOS団の面々が反応?する「遭遇システム」というものが搭載されており、 これが表示されると特殊なメッセージと共にパワーゲージがほんの少し増える。 その種類はざっと確認しても非常に多く、宇宙人、未来人、超能力者はもちろん、スタンド、気や念使用者、ネスツの改造・クローン人間、 警察、プリキュアやペルソナ使い、はたまた「ジャンプ力ぅ…」等のネタもあり、とても探しきれない程。 AIは「Aモード」のみ対応で改変元の仕様そのままであり、「Bモード」は未搭載となっている。 なお外部AIに関しては「Bモード」のみ受け付けており「Aモード」については不可となっていたが、 後にチョイヤー氏御本人からOKが出たので両モードで可能となった。 特殊やられや演出が豪華になった事でデータ容量も倍以上に重くなっている点に注意。 余談だが、涼宮ハルヒの消失が発生した日と同じ12月18日頃からハルヒの公開日までゆ~とはる氏のサイトがその名の通り消失していた模様。 出場大会 + 一覧 シングル 第4回トーナメント AI付きシングル戦 ドキッ!女だらけのMUGEN大会 クィーンオブファイターズFINAL ( ^ω^)-ニコ動史上最低トーナメントVI- 最強のおっぱい決定戦 エミヤ主催トーナメント 夢幻界統一トーナメント【実況】 ゲージMAXシングルトーナメント【Finalゲジマユ】 早擊勝負!!LIFE只有1的死鬥大會 狭い部屋で人間弾幕!トーナメント ラノベシングルトーナメント オールスターゲージ増々トーナメント 画質良くないけど、夏だから女64名あちゅまれ☆トーナメント MUGEN祭 大盛りシングルトーナメント 版権オリジナルキャラクタートーナメント ミニ☆ミニ☆大作戦 総勢256名☆燃えて萌えるヒロインズトーナメント MUGEN祭 並盛りシングルトーナメント 【MUGEN大祭】特盛りシングルトーナメント タッグ 高校生キャラ大会 自分でもタッグトーナメント組んでみた 同じ中の人タッグトーナメント (多分)初心者が作ってみたトーナメント2 第2回ベストカップル決定戦 仲良し杯 男女ペアタッグバトル大会V2 タッグトーナメントRS Anime&Comic VS. タッグトーナメント ゲージMAXタッグトーナメント【ゲジマユ2】 夏休みだよ!大MUGEN学生杯 ペット大好き!?名トレーナー決定トーナメント 源流斎マキタッグトーナメント アンノーン主催FINALバトルロワイアル 新生男女タッグトーナメント【ロリ】 MUGEN FANTASY タッグトーナメント 沒主題比武小會 オリキャラ&版権キャラでタッグトーナメント タタリフェスティバルッ!! 皆が見たいと思った男女タッグで大会 萌属性別女子二人杯 ラノベっぽい何かでタッグトーナメント 同級生という名のタッグリーグ戦 戦いごとにルールが変わる!!高性能タッグ大会 ゲージ増々タッグトーナメント mugenオールスター?タッグファイト 勇次郎さんとタッグ組むことになってみすずちん、ぴんち! 友情の属性タッグトーナメント MUGEN祭 並盛りタッグトーナメント 友情の属性タッグサバイバル チーム 第2回ニコニコチームトーナメント はい、三人組作ってトーナメント 4人チームトーナメント オロチフルボッコ杯 作品別Ultimateトーナメント MUGENカテゴリトーナメント うp主処女作杯 in MUGEN ネタかリアルか?シッショートーナメント Anime VS. トーナメント 好きなキャラだけでトーナメント トゥエルヴと互角以上 チームバトル ACG主題作品別MUGEN大會 作品別グランプリ 無茶?無謀?第5弾 『成長+大貧民』 24チーム・96人・ランセレ・特殊能力・サバイバルな大会 初心者による試作の為のトーナメント Mametang式、特に変わり映えしないチームバトル 神無の陣 種族別3VS3チームバトル【ポンコツ杯】 陣取り合戦TAG 無縁塚トーナメント ベル主催!栄光のぽっこーん3VS3チームバトル【ポンコツ杯2】 影慶主催愾慄流良調整大武会 新春テーマ別チームバトル2013 新春テーマ別チームバトルF その他 最弱女王決定戦 はい、10人組作って運動会 セルハラ訴訟勝訴争奪男女対抗団体戦 はい、X人組作って運動会 はい、○人組作って運動会 【新機軸】空気読めない奴は汚ねえ花火だぜリーグ【作品別】 秋のおっぱい祭り【貧乳VS豊乳】 大体ランセレ 博麗霊夢争奪戦 全員集合ランセレパーティバトル 霊夢争奪戦第二幕 ストーリー動画対抗ッ!体育祭 戦いごとにルールが変わる!!高性能タッグ大会 仲間がいると死ぬトーナメント コミュニティー争奪祭~番長格付Festival~【番格FES】 ランセレパーティバトル デビルサマナー決定戦 手書きキャラonlyトーナメント 版権VSオリジナル 交代制作品別トーナメント 閣下主催!クロス×フェスティバル ニコニコRPGMUGEN杯 ランダムカラー シングル&タッグ戦 打倒剣帝!無差別級大会 ほこ×たて杯 最強の男たちVS最強の女たち 特大合コン再び!! パラ×ハル杯裏 新生男性軍VS新生女性軍 史上最大級 MUGEN界 男性連合軍VS女性連合軍 【おっぱい】ちょっとエッチな涼宮ハルヒの格闘大会【パンツ】 ニコニコオールスター・タッグトーナメント 更新停止中 究極のMUGENタッグ編 男女ペア頂上対決!バトルシティトーナメント クィーンオブファイターズ2009 適当に共通項男女タッグトーナメント 【最強から】主人公番付バトル【最弱まで】 声優別タッグチームランセレバトルロワイヤル 最大規模!作品別 成長ランセレサバイバルバトル 凍結 陣取り合戦TAG 春なのにモテないからタッグトーナメント開く 削除済み 無差別フォルダトーナメント 平凡な対戦格闘をgdgdとやるトーナメント 仲間を呼び出せハチャメチャタッグトーナメント MUGEN学園部対抗トーナメント 国内 VS 国外 アニメチームバトル Re 超弩級作品別Big Bangトーナメント 出演ストーリー + 一覧 Determination ELEVEN~小心者リーダーと見た目お嬢様~ MUGEN LIFE MUGEN学園カラス部 Revelations SOS団と3人の姫君 家電量販店DIODIO 涼宮ハルヒによるMUGEN地獄 セルハラ訴訟勝訴争奪男女対抗団体戦 中華にゃん 道具屋の異世界日誌 中の国 彼岸日和 プロジェクトB 北方学園生徒会! ロック・ボガードの憂鬱
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4798.html
はじめに ・文字サイズ小でうまく表示されると思います ・設定は消失の後くらい ・佐々木さんとか詳しく知らないので名前も出てきません ・異常に長文なので暇な人だけ読んで欲しいです ・投下時は涼宮ハルヒの告白というタイトルで投下しましたが、すでに使われていたので変えています ・誰時ってのは黄昏の旧漢字……らしいです 多分 では、のんびりとどうぞ 学校行事に書き込まれていたテスト週間も無駄な努力と時間の経過によって無事終了し、晴れ晴れとした寂しさだけが残った週末。 テスト期間にあった祝日をむりやり土日に繋げてできた取って作った様な連休に、テストの結果に期待しようも無い俺は心の安息を求めていた。 この不自然な形の休日に教師といえども人間であり、生徒同様たまにはまともな休みが欲しかったなんていう裏事情には気づかない振りをするのが 日本人らしくて好ましいね。 しかし、テストが帰ってきて偏差値などという価値基準が俺に付与されれば、日本経済の実質成長率の如く一向に上がる気配を見せない俺の成績に 母親は表情を暗くするのは想像に難しくない。 でもまぁ、今は人事を尽くした者として大人しく天命を待てばいい。 休むべく作られた休日ってのを謳歌してな。 放課後の帰り道、ハルヒによって明日の休日初日から呼び出されているという事を踏まえても俺はずいぶんのんびりとしていた。 それは長門の一件が解決したばかりだったという事もあるが、最近のハルヒはあまり無茶をしなくなっていたってのもある。 ……そんな俺の考えは煮詰めた練乳並みに甘かった事を、俺は数日後に思い知る事になり今に至るというかなんと言うべきかね。 ともかくだ、天命って奴は人事を尽くしたくらいじゃ変えられないらしいぞ。 涼宮ハルヒの誰時 「急に呼び出したりしてすみません」 そう言って軽く頭を下げた古泉の顔には、驚いた事にいつもの営業スマイルがなかった。 そもそも目的地があるのか無いのか、もしくは現在考え中なのかすらも定かではない黒塗りタクシーは俺と古泉を後部座席に乗せて軽快に夜の街を走っていく。 この車に乗るのも古泉に呼び出されるのも久しぶりの事だ。 最近はハルヒも落ち着いてきたと思ってたんだが、また何かあったのか? 一応はそこそこに一般常識があるはずの古泉の事だ、俺を深夜に呼び出す理由なんてハルヒ絡み以外には想像つかない。 「当たらずも遠からずって所ですね……これからお話する事は確定した事実ではなく、あくまで仮定に過ぎないという前提で聞いてください」 随分もったいぶるじゃないか。わかった、仮定の話だと思って聞くよ。それで? 「僕が以前お話しした、涼宮さんに望まれたがゆえに僕達の様な超能力者が生まれたという話は覚えていますか?」 ああ。残念ながらなんとなくは覚えている。 あの夢物語の事だよな、この間妹が見せにきた絵日記に似たような内容があって焦ったぞ。 「あれから我々も世界の破滅を防ぐ為にと色んな勢力と情報交換を繰り返してきました、その結果一つの結論に辿り付いたんです」 結論ねぇ。聞こうじゃないか。 俺のリアクションに期待でもしていたのだろうか?古泉は次の言葉をやけに芝居がかった感じで言い切った。 「あなたです」 は? 「あなたが全ての始まりであり終わり。それが機関の暫定的な結論です」 ……古泉。 「はい」 そんな冗談を言う為に俺をわざわざこんな深夜に呼んだのか? 俺はこれから、明日の休日にハルヒが無茶をするのに備えてぐっすりと寝ってやる所だったんだぞ。 「冗談です、と言いたい所ですが機関は本当にそう考えているんです。僕としてはまだ半信半疑といった所ですが、信頼すべき部分もあると」 やれやれ、俺はただの一般人だって保障したのは確かお前じゃなかったか? 「あの時点では確かにそうでした、しかしその後の貴方の行動によって過去に新たな確定事項が出来た事により、事情は変わってしまったんです」 何を馬鹿な……まて、過去が何だって? 「はい。貴方は朝比奈みくると過去へ行き、過去の涼宮さんと出会った……そうですね」 あれ、お前にその事を言ったか?……まあいい、確かにそうだ。 「その出会いそのものは問題ではありません。問題なのは、あの時貴方が会った涼宮さんは、それより前の時間にはどこにも存在していないんです」 古泉、日本語で頼む。 「僕も詳しい事はわかりませんが、推論で言えば貴方が過去へ行った事で涼宮さんは誕生した。つまり、涼宮さんは貴方が創り出したという事になりますね」 営業スマイルを何処かに置き忘れたらしい古泉は、真面目な顔でそう言い切る。 ……お前、正気か? 「僕はいつでも、そこそこに正気のつもりです」 だったらよけいに性質が悪い。 長門でもハルヒでもない俺が、人間なんて作れると思ってるのかよ。 「確かに最後の部分は僕の推測です。ですが、機関が接触している長門さんとは別の統合思念体の組織によって、涼宮さんがあの日校門の前で 貴方に出会うより前の時間に存在していない事は確認されているんです。さらに言えば、我々機関の人間がこの超常の力を手に入れたのも 貴方が涼宮さんと過去で出会った日と同じ日。今となっては確認する方法はありませんが、貴方が涼宮さんに北高であったあの日まで、 涼宮さんはどこにも存在していなかったのかもしれませんね」 これ、笑う所か?そう思いたいのだが、残念ながら古泉の顔は至極真面目ときてやがった。 わかったわかった、お前のその意味不明な話が全部正しいとするさ。それで、何故そんな話を俺にする?論理ゲームなら長門とやってろよ。 お前は以前、ハルヒには何事も無い人生を送って欲しかったと言ったじゃないか。 最近はあいつも大人しくなってきたのに、俺におかしなロジックを吹き込んでまでわざわざ不確定事項を探してどうするんだよ。 「……確かにそうですね、僕が話している事は自分でもとても危険な事だと思います。ですが、その先に待つもっと大きな危険を回避する為に 貴方にはどうしても話しておかなければならない。このまま、僕の話を最後まで聞いてもらえればその事についてもご理解頂けると思います」 その先に待つ危険ねぇ……。 俺は明日、ハルヒが何を言い出すか考えるだけで手いっぱいなんだがな。 「統合思念体によれば、数年後のこの世界に朝比奈みくるは居ません」 ……それは……寂しいが仕方ないんじゃないのか?忘れがちだけどあの人は未来人なんだ。 っていうかそれは秘密にしておいて欲しかった。 でもまあ数年後って事は、高校に居る間は一緒に居られるって事か……そういえば朝比奈さんは俺達よりも先に卒業する事になるが、進学するんだろうか? 俺のお気楽な考えをよそに、古泉は深刻そうな口調で続ける。 「それだけではありません、長門さんも僕も、涼宮さんも居ないんです」 は? って、今日2回目か。 「SOS団のメンバーで最初に涼宮さんと出会ったのは貴方。SOS団が発足するきっかけになったのも貴方。数年後のこの世界に残っているのも貴方だけ。 ここまでくれば疑う余地もなく全ての原因は貴方である。以上が機関の結論です」 ちょっと待て、今話してる事は本当なのか? 「…………」 古泉。 俺の問いかけに、何故か古泉は苦しそうな顔で視線を外した。 「僕からこれ以上お話しても貴方は理解も納得できないと思います。ここから先は長門さんに聞いてみてください」 長門? なんでここで長門の名前が出るんだ? 「我々の掴んだ情報通りならば、長門さんにも未来の自分と同期する事ができるはずです。それを使えば、何年先まで自分が存在しているかがわかるはず」 ……そこまで知ってるのか。 久しぶりに嫌な予感がする。何かが起こりそうだが、結局俺には何もできないで終わる事になりだというなんとも疲れる予感だ。 「混乱させてしまってすみません、僕も正直心の整理ができそうにありません。ですが、このまま何もしないで破滅の時を迎えるよりは、 とにかく行動したほうがいいと思ったんです」 まるで朝倉みたいな事を言うんだな。 「え?」 いや、こっちの話だ。気にするな。 会話が途切れるのと同時、まるで事前に何度もリハーサルをしたかのようなタイミングでタクシーは長門のマンションの前に止まった。 深夜のマンションの廊下は当然ながらまるで人の気配がしない。 もしも巡回中の警備員に出くわして、何をしているのかと聞かれたらなんて答えればいいんだろうね? 超能力者の予言による世界崩壊の危機を回避するための助言を宇宙人に聞きに来たんです。とでも言えばいいのか? まったく、間違いなく救急車を手配してもらえるだろうよ。 以前長門から聞いた暗証番号を使ってマンションに入ることができた俺は、そのまままっすぐ長門の部屋へと向かった。 冷たいインターホンを押すと、呼び出し音の後には無音の静寂が続く。 その無音の中に長門の気配を感じて、俺はマイクに向かって話しかけてみた。 俺だ、夜遅くにすまないがちょっと話をさせて欲しい。 もしかして寝てるか?普通なら誰だって寝てる時間だしな。 数秒後、インターホンには何の返事も無いままで部屋のロックは小さな音を立てて外れた。 扉の向こうに居た長門は深夜だというのに何故か制服をきたままだった。……なんでだ? まあいい、深夜だし古泉ならともかく長門に迷惑をかけるのは気が引ける。 部屋にあがらせてもらった俺はさっそく、さっき古泉から聞いたとんでも話をそのまま長門に伝えた。 と、いう事なんだが……。古泉が疲れてるだけだよな? 個人的には「妄想、精神的疲労による軽度の錯乱状態」って返答を期待したいんだがどうだろうか? しばらくの沈黙の後、 「……古泉一樹の所属する機関は、確かに私以外の統合思念体の端末ともコンタクトしている。統合思念体の中には未来の情報を伝える事で、 自立進化に関わる不利益を回避しようとする派閥が存在する」 そんな事ができるっていうか、許されるのか? お前の上司ってのがそこまで無茶苦茶な連中だとは思ってなかったぞ。 「許されない。未来への干渉は、結果的に得られるはずだった自立進化の可能性を消失してしまう可能性がある」 何にしろ自分中心って事か 「そう。本当に統合思念体が未来の情報を漏らしたとしたら、それは自にとっての危機的状況を回避する為に他ならない」 ……統合思念体の危機?そうか、以前長門は。 「以前私がそうしたように、統合思念体の存在が何者かに消去されその状態が回復される事がない未来を見つけたのかもしれない」 ……それってつまり、自分が消されそうになるならその歴史を改竄する事もありえるって事なんだろうか? それならあの時の長門も何かされてもおかしくなかったって事じゃ。 あ、それとも結果的に自分が元通りになるってわかってたから何もしなかった……駄目だわからん。今はとにかく現状の事だけ考えよう。 長門、古泉が言った未来との同期ってのをしてみてくれないか? 「……」 肯定も否定でもない、無機質な視線が俺を見つめている。 あいつは数年後の未来にお前も朝比奈さんも、古泉もハルヒも居ないって言った。つまり十年以上先の未来のお前と同期できたら、あいつの言ってた事は 全部思い過ごしって事だろ? 「……申請してみる」 すっと長門の視線が天井の特に何もないはずの部分に固定され、俺はしゃみせんが時々そうしているのを思い出していた。 あれって何を見てるんだ?もしかして、猫はみんな情報思念体とアクセスできる……なわけねーか。いや、どうだろう。 数十秒程の沈黙の後。 「だめ」 その返事は俺を安心させる物ではなかったが、とりあえず不安にさせるものでもなかった。 しかし、問題はこの後に続く言葉だった。 「一年後の未来に同期すべき私は存在しない。更新できたのは、3日後の自分まで」 古泉のとんでも話より、もっととんでもない話が俺を待っていたらしい。 「私の存在は3日後の21時57分に消失する。その時刻には、朝比奈みくる、古泉一樹、涼宮ハルヒの3人もこの世界に存在していない」 3日後って……数年先じゃなくて今週のか? 「そう。貴方だけが残る」 ……まてよ、そんな事になったら未来の朝比奈さんはどうなるんだ?3日後に今の朝比奈さんが消えてしまったら……あ、そうか。 3日以内に未来に帰ってしまうだけって事だよな。 朝比奈さんが生まれるのがもっと先の未来なら、数年後の世界に朝比奈さんが居なくても不思議じゃない。 「違う。朝比奈みくるの存在その物が消える」 存在その物が消えるって…… 「この時間軸に存在する朝比奈みくるも、異時間同位体の朝比奈みくるも確定した未来の存在ではない。このまま時間が続けば、存在する事になったはずの 暫定的な存在」 待ってくれ、俺にはさっぱり理解できん。 ……そうだ長門! お前は自分が消える直前までに起きる事をみんな知ってるんだな? 俺の言葉に長門は頷く。 ルール違反を指摘したばかりだとか言ってる場合じゃない、これが非常事態じゃないなら何が非常時だっていうんだ! だったらそれを教えてくれ!それさえ分かれば危機が回避できるから、未来の情報を流したりするんだろ? 「できない」 できないって……。 「貴方が異時間の情報を古泉一樹から聞いた時点で、歴史に差異が生まれた。21:57に消失する未来も予測される未来で確率が高いと思われる一つであり 確定された物ではない。これから先に起きる出来事は、もう誰にもわからない」 ……なんとなく、居るんじゃないかと思ってましたよ。 「キョン君」 教えてください、知っている事を全部。 「はい、私に話せる全てをお話します。これが、キョン君と会う最後なんだから」 長門のマンションの外で俺を待っていたのは、寂しそうな顔をした大人の朝比奈さんだった。 何も言わない朝比奈さんについていくと、やがていつも俺達が集まる時に使っている駅前の小さな広場に辿り着く。 駅前は深夜だという事を考えても不思議なくらい人影もなく、町は俺達以外に誰もいなくなってしまったのではないかと思う程に静まり返っていた。 「明日の朝、ここにみんなが揃って涼宮さんがSOS団の解散を宣言します」 は? 今日は何回驚かされればいいんだ?……そろそろ勘弁してくれ。 朝比奈さん……それってマジなんですか。 俺の言葉に、朝比奈さん(大)は何故か微笑む。 「はい、大マジです。そして、キョン君は涼宮さんに告白されて恋人になるの」 は? 思わずまた大きな声が出てしまった俺を見て、朝比奈さん(大)は嬉しそうに……って今なんて言いました? 「……ショックだったな。なんて、今更ですけど」 や、やだなぁ。こんな時に冗談言わないで下さいよ。 動揺する俺を前に、朝比奈さんは淡々と話し続けた。 「涼宮さんの告白のセリフもキョン君の答えも全部知ってます。知ってるのに、私は存在しなくなるなんて不思議な感じ」 不思議な程、朝比奈さん(大)の言葉は落ち着いていて、それとは反対に俺は状況把握に必死だった。 えっと、みんなが数年後に消えてしまうと思ったらそれは実は3日後で、それはよくわからない宇宙理論で回避できないらしくて、SOS団が明日解散して ハルヒが俺に告白する? どこから突っ込めばいいんですか、これ。 「そして3日後、2人は初めて結ばれて……みんな消えるの」 追い打ちかけないでくださいよ! と叫びたかった。 言葉ってのは凄いな、この時の俺はハルヒに襟首を引っ張られて机に頭を叩きつけられた時よりも動揺していた自信がある。 何で、何でそんな事になるんですか?意味がわかりませんよ。 「それは……私には言えないの。ごめんなさい」 自分が消えるかもしれなくても言えない事ってなんですか?なんて言える空気じゃない。 寂しそうな声で謝る朝比奈さん(大)にそれ以上何を聞いていいのか、俺にはわからなかった。 ――どちらからともなく木製のベンチに座った俺達は、暫くの間無言だった。 でもまあ悪くない沈黙だったと思う。 俺は少しでも頭の整理がしたかったし、朝比奈さん(大)も何か考えているようだった。 ベンチの冷たい感触が無くなってきた頃、 「……キョン君、子供の頃の思いって純粋だと思わない?」 急にどうしたんですか? 優しい声で話す朝比奈さん(大)は星も見えない夜空を見上げたまま、話し続けていく。 「架空の存在ですら心から信じられる、子供ってそんな純粋な心を持ってる。キョン君も信じてたのよね?宇宙人に未来人、正義の味方に超能力者。 年を重ねて現実を知るにつれてそれを信じなくなってしまったけれど」 ……あ、あれ?俺、そんな事話しましたっけ?やだなぁ、忘れてください。 孤島で飲んだ時にもで言ったのか?喋った覚えはないんだけど。 「そんな存在居るわけがない……でも少しは居て欲しい。子供の頃の貴方では想像できなかった現実的な部分まで想像できるように成長した貴方は、 北高校に入学したあの日もそう願っていた。超常的な存在の近くで色んな出来事に巻き込まれながらも見守る、そんな一般市民になりたい、と」 違う、そんな事まで俺が朝比奈さんに言うはずがない。俺だって今、言われるまで忘れてた事だ。 なんで、それを……。 「キョン君、貴方は心から願ってしまった。そんな超常的な存在……もうわかっちゃったよね?涼宮さんみたいな人に出会いたいって。心当たりは あったと思うの。神様みたいな力を持っている涼宮さんが、貴方の後ろの席に居たのは偶然?あの席順でなければ、キョン君はきっと涼宮さんに話し かける事はなかった」 それは、たまたま50音順で座ったからじゃ。 「たまたま同じ学校に進んで、たまたま同じクラスになって、たまたま50音順で後ろの席になった女の子がキョン君の望んでいた神様みたいな女の子。 しかもその子にたまたま選ばれた……これはもう偶然とは言えないですよね。どこかに必然が混じってるんです」 ……もしかして、ハルヒが俺を前の席にしたって事じゃ? 「涼宮さんが探していたのは北高の制服を着ていたジョン・スミス。中学校の時に高校生のジョン・スミスを見て同じクラスになれると思うはずがないし、 万一矛盾を無視してそれを望んだとしても、その名前を本当に信じていたならスミスさんでは並びで言うと涼宮さんの後ろに居るはず。でも実際に 後ろの席に居たのは谷口君でした。そして貴方もずっと感じていた疑問、何故宇宙人でも未来人でも超能力者でもない普通の高校生のキョン君を 涼宮さんは選んだのか?さっき話した、たまたまの中にある必然……その答えは、貴方を選んだのが涼宮さんだったのではなく涼宮さんを選んだのが……」 待ってください! 思わず立ち上がった俺はとにかく何かを言おうとした、このまま説明を聞いていたら何かとんでもない事になってしまうんじゃないか? そんな不安が俺をとにかく焦らせていた。 えっと、今この世界に居るもう1人の朝比奈さんは、未来人だって話を打ち明けてくれた時に数年前のある日よりも以前の時代に戻れなくなったって 言いました。そうなんですよね? 「はい、そうです」 でしょう?って事はやっぱりハルヒが全ての原因なんじゃないですか? 「キョン君が私を背負って涼宮さんとグランドで出会ったあの日、あの日よりも過去に戻れないんです」 黒塗りタクシーの中で聞かされた、あの時貴方が会った涼宮さんは、それより前の時間にはどこにも存在していないんですという古泉の言葉が思い出される。 ……古泉が言っていたのは……じゃあ。 俺の思考の中で纏まらなかった考えが、望まない形に固まっていくのが止められなかった。 「時間変動が観測されたあの日、涼宮さんがこの世に誕生した。まるで今の年代から逆算したかのような年齢で唐突に。そして関係する全ての人間の記憶に 彼女の存在が書き込まれた。そして涼宮さんによって未来人の存在が産まれた、……そう考えればあの日よりも前に戻れないのに説明がつくんです」 それで理解できるのだろうか、朝比奈さん(大)は小さく息をついて口を閉じてしまった。 すみません、さっぱりわからないんですが……。 俺にわかるのは大量に浮かび上がった問題だけです。それも長門でも解けないであろう超難問がいくつもね。 溜息といっしょに再びベンチに座る、しばらくは立ち上がれそうにない。 じりじりとした感覚だけが続く無言の時間の中、俺は何を考えればいいのかわからず、朝比奈さん(大)は今何を考えているのだろうか?と考えてみた。 これで会うのは最後だと言いきったのはこれがはじめてだけど、それは何故なのか? 未来が変わってしまうのなら、何故朝比奈さんは今ここに居られるのか? ……どうすればいいか教えてくれないのは、もうどうしようもないって事なのか……。 結局考えは形になる事はなく、いつしか悩んでうつむく俺を朝比奈さん(大)は優しく見つめていた。 「キョン君……もう、お別れの時間になってしまいました」 静かに立ち上がった朝比奈さん(大)が言い出した時、俺はそれを引き留めても無駄なんだろうなという事はわかった。 ベンチに座ったままの俺を見下ろす女神は、俺を沈黙させるなど容易いほどに綺麗で、今は大きなその眼に涙を浮かべている。 「この時代に来た私は幸せでした。色々恥ずかしい思いもしたけど、楽しい思い出もいっぱいできたもの。それに……」 すっと近寄ってくる朝比奈さん(大)の体が俺に重なり、動けないままでいる俺を抱きしめた腕に力が込められる。 その体は小さく震えていて、それに気づいても俺にはどうしていいかわからなかったのが悔しかった。 「もう1人の私は何も知らないまま消えてしまうけど……忘れないでね……私が居た事、過ごした思い出を」 俺の耳が涙に震えるその言葉を捉えたのを最後に、ふっと俺の意識は途絶えた。 ――居るわけないか。 再び俺の意識が戻った時ベンチに寝ていたのは俺一人で、やはりというか朝比奈さん(大)の姿はどこにもなかった。 俺の服にしみ込んだ水滴の跡だけが彼女の残した痕跡だ。 ……ハルヒは俺の思い込みの産物で、実は俺が神様だって?冗談だよな。いくらなんでも。 このままここに居ても風邪をひくだけだ。気だるい体を起こし、俺は日付が変わろうとしている静かな町を足早に歩いて行った。 SOS団が解散?確かに明日は市内散策の日で、俺達はここに集合する事になってる。だからってハルヒがそんな事を言い出すなんてありえない。 そうさ、あいつは未来永劫にSOS団は不滅だって言ったんだ。 だから俺は、翌日駅前に集合した時にハルヒが珍しい事に遅刻してきた上にポニーテールだったのにも驚いたんだが。 それより何より、全員が揃った所でいきなりハルヒがSOS団の解散を宣言した時は本当に時間が止まったと思った。 むしろ、止まって欲しかったぜ。 一日目 ただでさえ大きな可愛い瞳をさらに見開いて固まっている朝比奈さん。 多少やつれた顔で、それでも笑顔らしい表情を浮かべている古泉。 こんな時でも無表情の長門。その無表情が今は何故か、悲しく感じる。 俺は……俺はどんな顔をしてたんだろうな?自分ではわからないが、きっと間抜けな顔をしてたんだろうよ。 誰も何も言えないでいる中、ハルヒが口を開く。 「急にこんな事を言ってごめん。SOS団はあたしが言い出した事なのに自分でも勝手だって思ってる」 お前が勝手なのはいつもの事だが……。ハルヒ、お前本気なのか? 思わず本音が混じっていた俺の言葉に怒りもせず、何故かハルヒは顔を暗くして視線を外す。 「うん」 うんだと?俺の聞き間違いか? 谷口、国木田。隠れてるなら今すぐプラカード片手に出てきてくれ。鶴谷さんでも部長氏でも誰でもいい! みんなで揃って俺を担いでるんだろ?そうでなきゃおかしいじゃないか? 悪いことはみんな夢だなんて思うわけじゃないが、これはないだろ? 俯いたハルヒの周りに立つ誰もが口を開けない中、再び沈黙を破ったのはハルヒだった。 「じゃあ、これで解散。みんな……今までありがとう」 その言葉は、信じられない事に涙で掠れていたんだ。 今でも信じられないぜ。 やがて、小さく会釈して古泉が去り。 不思議な事に、長門は顔を上げられないでいるハルヒの手を軽く握ってから去っていった。 最後に残った朝比奈さんはハルヒ以上に涙目というか号泣で、俺とハルヒを交互に見ながら状況の説明を目で求めていた。 かといって俺に言える事なんて何もないわけで、無言の時間を過ごしていると……。 「キョン」 俺の名を呼ぶハルヒの声は、いつもの無意味なまでの力強さは無かったけれど、もう涙声ではなかった。 ただ、ずっと俺とは視線を合わせないままで視線は下を向いたままだったが。 「あたしね、SOS団のみんなが好き。もう解散してしまったけど、きっと一生忘れない」 ……俺もさ。 これだけ楽しい時間を過ごした仲間を忘れるような奴が居たら、そいつは健忘症の末期症状か情報の改竄でも受けたに違いない。 ただ、ここで終わりにするのは何故なんだよ? イベントが尽きたなんて言わせないぜ?なんとなくすっきりしないから、なんてふざけた理由でエンドレス夏休みをやったお前なんだからな。 「……宇宙人、未来人、超能力者。そんな普通じゃない何かと過ごせればきっと楽しいってずっと思ってた。ううん、今でもそれは楽しいんだろうって思ってる」 お前には言えないが、経験者から言わせて貰えばそれは楽しいぞ。 平凡な日常って奴が恋しくなるくらいにな。 「でもね、今はそれよりもっと楽しい事があるの」 そう言ってから、ハルヒはようやく俺に視線を向けた。 紅潮した頬と潤んだ視線に、俺は思わず息を飲む。 『そして、キョン君は涼宮さんに告白されて恋人になるの』 大人の朝比奈さんの言葉が蘇り、俺の体に緊張が走った。 まさか……本当にハルヒが? 動揺する俺に落ち着く時間なんて与えてくれるはずもない、そんな所だけはいつものハルヒだったな。 こんな状況で、そんな落ち着いた考えが浮かんだのは何故だろうね? 突然顔を近づけてきたハルヒに唇を奪われた俺は、その柔らかな感触をじっと感じる事ができる程度の余裕があった。 キスしたまま、まるで動こうとしないハルヒ。 ここが日中の街中で人目が無ければ俺もしばらくこうしていた……ってここにはまだ朝比奈さんが! 眼球の動きだけで視線を動かすと、俺達を見つめる天使は口元を両手で隠しながら涙眼のまま微笑を浮かべている。その表情に驚きが無い気がするんだが……。 どれ程そうしていただろうか。 ようやく唇を離したハルヒの第一声は。 「バカ」 だった。 なんていうか……お前らしいな。 「う、うるさい」 ハルヒはいつものペースを取り戻した様な気もするが、その顔は真っ赤なままで見ているとこっちまで赤くなりそうだ。 離れるまで気がつかなかったが、どうやらハルヒはキスしている間ずっと背伸びしていたらしい。 今は恥ずかしそうに視線を泳がせているハルヒのポニーテールが、俺の目の前に見えている。 えっと、今のは……つまり。 なんて聞いたら怒りそうだが、聞くしかないよな?でもなんて言えばいいんだ? 「みんなと居る時も楽しいけど、あんたと2人で居る時の方が楽しいの。でもみんなが嫌いって事じゃなくて大好きなんだけど、あんたは……その、 特別っていうか。2人でずっと一緒に居たいって思って……その。あ、あんたも何か言いなさいよ!」 言ってるお前も恥ずかしいだろうが、聞いてる俺も恥ずかしいぞ。ついでに言えば朝比奈さんはもっとだろうさ。 ハルヒ。 「な、何」 俺の言葉に身を震わせるハルヒは、いつもと同じ強気な暴君の様に胸を張ってはいたが。その手は震えていて、俺を見返す瞳には脅えが浮かんでいた。 未来の朝比奈さん、あなたが聞いたセリフってのは俺が今から言う言葉と同じですか? すっと今の朝比奈さんへ視線をずらすと、ハルヒの顔が一気にこわばる。 俺の視線を受けた朝比奈さんは戸惑って何か言おうとしているが、俺はそれを片手で制した。 さあ、ジョン・スミス?お姫様がお待ちだ。さっさと言っちまえ! ハルヒへと視線を戻した俺は口を開き……。 何で俺なんだ? ハルヒと付き合いだした俺が最初に思ったのはそれだ。 面白さって事なら我ながら特に特徴の無い俺を、魏の唯才令曹が如く人外の逸材を求めていたハルヒが必要とする要因なんて何一つないだろう。 外見?自慢じゃないが、俺がモテるようなルックスじゃない事くらい自覚してるさ。 じゃあ何だ? そんな質問をハルヒが嫌うって事だけは知っている俺は、1人になるたびに答えの出ない自問自答に耽っていた。 まあ、あまりに自分を否定する材料しか出なくて途中で止めたけどな。 「お待たせ」 トイレから戻ってきたハルヒが自然に腕を絡ませてくる。それを恥ずかしいとは思うのだが、ハルヒがやけに嬉しそうなんだから恥ずかしいくらいは 我慢するとしよう。 「あ、カラオケ!入ろう?」 ああ。 本日SOS団でする予定だった市内散策は、そのままデートに形を変えて実行されていた。 もちろんここにいるのは俺とハルヒだけ。 告白の場に居た朝比奈さんの姿はいつの間にか消えていて、俺は彼女が未来へ帰ってしまったのではと狼狽した。 しかし、俺の携帯にいつの間にか届いていたメールを見てほっと胸を撫で下ろす事になる。 『実は、少し前から涼宮さんから好きな男の子が居るって相談されてたんです。涼宮さんの事を大事にしてあげてくださいね』 返信はまだしていない。何て打てばいいのかわからないしな。 かつてお前に、こんなおかしな事は止めて彼氏でも作って一緒にデートでもすればいいと言った事はあったが……まさか俺が彼氏になろうとはね。 人生何が起きるかわからないよな、ただの高校生でしかない俺が時間旅行に閉鎖空間を経験するとか、今時小説にもならない設定だぜ。 何より、お前と俺が付き合うなんてのは、これこそ事実は小説よりも奇なりって奴だろう。 カラオケはまだ日中という事もあって大部屋も含め殆どの部屋は空いてはいたのだが、俺達は2人だったので受付から案内された部屋は3人も入れば 手狭に感じるような小部屋だった。 店員の説明も終わり、扉が閉まって2人っきりになった途端。 「キョン」 呼びかけに振り向いた俺の唇を、再びハルヒの柔らかなそれが塞いだ。 今度は学習していた俺は、少し屈んでそれを受け止める事に成功する。 姿勢が楽だったせいか、さっきよりも長めのキスを終えたハルヒはまた顔を紅潮させていた。 沈黙に耐えられず、とりあえず座ろうとする俺の背後から問い詰めるような声がする。 「前に」 ん? 「前に市内散策した時。有希と、その。何もなかった?みくるちゃんとも!……べ、別に何かあっても今は無いならいいんだけど……」 ……ああ、あの図書館と公園に行った時か。何か懐かしい気がするな。 恥ずかしそうに口を曲げるハルヒはいったいどんな想像をしてるんだ?俺がそんなにもてそうに見えるのかよ。 まあ、あの2人に関して言えば恋愛以前の問題だったんだがな。 あのなあ。あれはみんな出会ったばかりの頃だろうが、そんなすぐに人を好きになったりすると思うか? 「あたしは!」 抗議するように声をあげてハルヒが詰め寄ってくると、座ったばかりのソファーの端に俺はおいやられた。 体勢を崩した俺を押し倒すようにして、ハルヒが俺の胸の辺りを見下ろしている。 「あたしは……ずっと。自己紹介の時に振り向いたあんたを見てから、ずっと気になってて……好きだったんだもん」 そこまで言い切った直後、ソファーに置かれたクッションが俺の顔目掛けて次々と飛んできた。 俺も顔が真っ赤だったはずだからそれはありがたかったんだが……。今のは本気か?その割には俺に対して常に攻撃的だったと思うぞ。 クッションの壁をようやく切り崩した時、ハルヒは何事も無かった様な顔でリモコン片手に曲を入れていた。 まだ顔が真っ赤だったのは見逃しておこう。 ハルヒ。 「ひゃっ?!」 俺に呼びかけられてハルヒが変な声を出して振り向く。 飲み物、何か飲むか? 内線を持つ俺に向かって、またクッションが飛んできたのは言うまでもないだろうね。 それから数時間の間、延々と2人カラオケが繰り広げられる事となった。 ハルヒは文化祭の時同様に素人とは思えない歌唱力を発揮して、俺はもっぱらお笑い担当だったのは適材適所って奴だろうよ。 異様なテンションの高さに飲酒を疑われるような2人だったのだが、俺は心のどこかでここに長門や古泉、朝比奈さんが居ない事に違和感を感じていた。 「キョン」 ん? 不思議なもんだ。 俺がそうやってハルヒ以外の事を考えていると、必ずハルヒはそれを察知したかのようにキスをねだってきた。というか奪いに来る。 短い時間のキスが終わると、決まってハルヒは寂しそうな顔をした。 今思えば俺はなんであんなにのんびりとしていられたんだろうな。 ハルヒが彼女になったのにって話じゃない、このままだともうすぐ4人が消えてしまう日が来るかもしれないって話さ。 夢見たいな事が現実になっちまったせいか知らないが、ともかく俺はハルヒとの時間を過ごす事に文字通り夢中だったんだ。 二日目 「ふ~ん……これがキョンの部屋なんだ」 あれ、夏休みに来た事あったじゃないか。 「あの時はみんなも居たじゃない。今日は、なんだか違う部屋みたい」 本来の主である俺よりもずいぶん軽いであろう体重を支えているベットは、それだけで他人の物みたいに見える。 今日もハルヒはポニーテールだ。 昨日も思ったが髪の長さが足りないせいでぴこぴこと跳ねるそれは、見ていて飽きることがない。 きょろきょろと落ち着き無く部屋中を見回すハルヒは、それなりに緊張しているようだな。俺もだが。 俺はそんなハルヒを椅子に座って眺めていた。 昨日、ハルヒとこれでもかと言う程に遊び倒してから別れた後『明日はキョンの家に行っていい?』とメールが来てからの数時間、俺は自室の掃除に 大慌てだった。 突然の行動に変な所でカンのいい妹は「キョン君!彼女?ねえ彼女が来るの?誰?有希ちゃん?」と騒ぎたて、それを聞きつけた母親も部屋を覗きに 来ようとするのを阻止しながら、何とか恥ずかしくない程度に掃除が終わったのは日付が変わった頃だった。 やれやれ、今は寝不足が続いていいような平時じゃないと知ってるのは俺だけってのはいくらなんでも不公平じゃないか? あ、古泉と長門も知ってるんだったな。 最後の最後まで抵抗を続けた妹は正午を過ぎた今もなお熟睡中で、母親は変な気を利かせてか外出中。 物音一つしない俺の部屋の中で、それまでイージス艦よろしく何かを探していたハルヒの視線がようやく止まった。 「あ、それってアルバム?」 そう言ってハルヒは本棚を指差してこっちを見てきた。緊張していた顔にようやく楽しそうな表情が浮かんでいる。 俺が頷くと、ハルヒはそれを見てもいいと解釈したらしくさっそくアルバムを取り出して膝の上に広げた。 「ふ~ん……。知らない顔ばっかりね」 学校が違うからな。 ハルヒが見つけたアルバムは中学の卒業アルバムで、当然俺の写真なんてクラスの紹介以外には殆ど無い。 行事で活動的に動くような生徒でもなかったし、部活動でも目立ってた事も無い。 そんなのんびりとした生徒をわざわざ写そうとする奇特な教師が居るわけも無く、見つけられた俺の写真の全てが小さな集合写真だったのは当然だろう。 どうやらハルヒはそれが不満なのか、小さな写真まで細かく調べていった。 まあ、気が済むまで見てればいいと思っていたのだが。 「あ、あのさ。中学の時にキョンは誰かと付き合ったりしてなかったの?」 アルバムに視線を落としたまま、ハルヒが呟く。 思わず一人懐かしい顔が思い浮かんだ……が。 してなかったぞ。 嘘をつくまでもなくこれは事実だ。 「そっか」 あっさりと告げた俺の言葉に満足したのだろうか、ハルヒはそれ以上追及する事無くアルバムを閉じて本棚の元の位置に戻した。 そしてそのままの姿勢で固まっている。 「これってもしかして有希の本?」 タイトルだけでよくわかったな。 まあ内容も見た目も軽い本が並んだ棚の中で、その本だけが分厚くて目立つのはわかる。 ハルヒの視線の先には、以前長門に借りたあの本があった。返さなくていいと言われて持ってはいるが、俺が何度も読むとは思えないし返した方が いいんじゃないだろうか。 借り物だけど読んでみるか?お前が気に入りそうな内容だったぞ。 「う、うん。また今度ね」 ……さっきから、というよりもこの部屋に部屋に入ってから変だな、こいつ。それとも俺が変なのか? 「あのさ」 ん? 「急に2人になると何か照れるよね」 そうだな。 平然としてるつもりだが、正直緊張しているぞ。 「でも、みんなが居る時はこんなにキョンと二人っきりで居られないし……。その、キョンは楽しい?……あたしと二人で居て」 緊張した顔で見つめてくるハルヒは、なんというかここで間違いが起きても仕方ないような可愛さだった。 椅子の背もたれに跨っておいてよかったぜ。すぐには馬鹿げた事をしないですむ。 一緒に居たくなかったら、部屋に入れたりしないだろ? 「……そっか、うん」 嬉しそうに俯くハルヒの仕草に、自然に手が伸びていた。 これくらいならいいよな?そう自分に言い訳しながら、ハルヒのポニーテールをそっと撫でてみる。 「ぃひゃ?!な、なに?」 今の俺とハルヒの間には閉鎖空間みたいな見えない壁がある気がする。 それは今まで一緒に過ごしてきた友達という関係で、その一線を越えちまったら今までの様には接する事ができなくなる。そんな壁だ。 自分からその壁を壊しにきたハルヒでさえ、今以上の関係になる事には躊躇いがあるのを感じる。 ……そうだよな、みんなで過ごしてきた時間はそんな簡単に手放せるような物じゃないもんな。 もしかしたら、俺達が恋人同士になってもSOS団を存続させる道はあるのかもしれないが、ハルヒは自分が一番望む事でなければ笑ったりしないだろう。 それがわかっているから解散したんだもんな。 でも今なら、まだ引き返せるかもしれない。 恋人ではなくSOS団の仲間に。 ハルヒは……いや、俺はいったいどちらの関係を望むんだろうか? とまあ俺達の関係もどうすればいいかわからないが、長門達が言うように本当に4人は消えてしまうかもしれないって問題のほうはさらに手詰まりに なっている。 いつもの様に誰かに相談する事もできない、かといって時間が進むのは止められない。 ――答えの出ない疑問を抱えたまま、最後の日がやってきた。 三日目 四日目 放課後の部室棟、誰も居ないであろう文芸部の部室の前で俺は立ち尽くしていた。 ここはもう元文芸部ではない。 廊下には文芸部と書かれたプレートがあるだけで、SOS団と書かれた紙はもうない。つまり本当に文芸部だって事だ。 もしろ最初からそんな紙は無かった事になっているんだろうよ。 触ってみてはいないが、プレートの上にセロテープが貼ってあった痕跡も無く、代わりにそれなりの年月で降り積もった埃が乗っているはずだ。 現状は、俺が長門の力によってハルヒの居ない世界に迷い込んだあの時よりも状況は悪い。 なんせ誰も居ないんだもんな。 頼るべき相手どころか相談相手も居ない。……そして俺には特別な力なんて無いんだ。 ドアノブに手をかけてみたが回す気になれず、俺は手を離してその場を後にした。 家に帰る気にもなれず、教室に戻った俺は机にその身を委ねてこのまま机の一部になろうとしていた。 俺の席は窓際の後ろから……一番目。 後ろの席になるべき場所に机はなく、そこは空間が広がっているだけ。 朝、教室に入った時にその状況を見ても俺は驚かなかった。 こうなってるだろうって予想はできてたからな、変わりに朝倉が居ないってだけいいのかもしれん。 ……いや、本当は朝倉でもいいから居て欲しかったな。 「お、まだいたのか」 声に続いて聞こえてきた足音は二つ、多分谷口と国木田だろう。 その音に振り向くだけの行為も面倒くさく、俺は夕焼けに染まろうとしている空を視線だけで見つめ続ける。 「なんだよキョン、世界の終わりみたいな顔して?」 言いえて妙って奴だな。 「はぁ?」 ある意味、主が居なくなったこの世界は終わってしまってるんだろう。 みんな居なくなってしまった。寡黙な宇宙人も、天使の様な未来人も、ゲームの弱い超能力者も……そしてあいつも。 1人残された俺にはのんびりとした平凡な日常が待っているはずだ、それは俺が望んだからなのか?望んでないとは言えないけどな。 「何意味不明な事言ってんだ?」 ……谷口。 「あ?」 俺が今から聞くことは無駄な事だ、自分でもそれは分かってる。 どうにも力が入らない体をなんとか起こし、奇跡って奴がもう一度起きないか願ってみた。 お前、涼宮ハルヒを知ってるか? 「すずみや……知らねぇな。どんな字を書くんだ?」 国木田はどうだ?長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹。聞いた事のある名前は無いか? 「ん~……聞き覚えのない名前だけど。新しい芸能人か何か?」 そうだよな、初めから何も無かった事になってるんだもんな。 ここは長門が作ったようなIFの世界でもハルヒが無意識に作ってた閉鎖空間でもない、ただの現実。それはわかってるんだ。 「休み明けからお前変だぞ?何があったかしらねえが元気出せって」 ありがとよ。 でもな、俺が何もする気にならないのは仕方ない事じゃないか? 魔法以上の愉快が、限りなく降り注いでいた日常が終わってしまったんだ。何事も無い日常って奴に慣れようにも時間が要る。 再び机との同化作業に戻った俺を残して、二人の足音は遠ざかっていった。 時間の経過に合わせて空はその姿を変えていき、沈んでいく太陽が教室内を赤く染めていく……。 圧力を感じるような光の中、俺はふと背後に気配を感じて振り向いてみた。 しかしやはりそこにはハルヒの机はなく、不自然に広い空間が広がっているだけ。 終わり……か。 今日という一日が終わって過去になり、明日が来る。その繰り返しの中で古い記憶は薄れていき、いずれは消える。それは避けられない事なんだよな。 そうやって理屈を並べて自分を理性的に納得させようとする感情と、それを否定する感情が心の中で戦っているのがわかる。 否定するそれは、ただ単純にあの頃……つまりは数日前に戻りたいと叫んでいた。 俺だってそうしたいさ、朝比奈さんや長門や古泉ともう一度会いたい。ハルヒとも……。 「見ないで」 悲しそうなハルヒの顔が一瞬浮かんで、消える。 あいつ、もう俺とは会いたくないと思ってるかもな。 それまで低かったはずの体温が急に上がるのを感じる、心臓が勢いよく鼓動しだしてまるで今から全力で走り出そうとしているみたいだ。 だらりと垂れ下がったままの腕に力が入り、掌もじっと汗ばんでくる。 あいつが会いたくなくても、俺は会いたい。 ……それだけでもいいよな? 俺は殆ど体温と同じくらいまで温まっていた机から身を起こし、真っ赤に染まった教室を出て行った。 まずはどこだ?いや、考えるまでも無い全部だ! 俺の足は、昨日カマドウマ以下であると確定した俺の頭が動き出す前にすでに走り出していた。 最初に向かったのは屋上の扉前、ハルヒに部活を作る手伝いをしろと脅された場所だ。 夕方の校舎はすでに照明も落ちていて薄暗かったが、探す場所も無いほどにそこには何もない。 ……次は、部室だな。 俺は階段を登ってきた勢いそのままに階段を駆け下りていく。 元文芸部であり元SOS団部室でもあった現文芸部の中には、やはり見覚えのある物は何もなかった。 長門の時に一回経験してるからな、ここまでは予想範囲内さ。 しかし、あの時と違うのは旧式のパソコンもすらもここには無いって事だ。 正直失望もあった。だが、諦めるのはまだ早い。 壁際に置かれた本棚に向かうと、さっそく端から順に調べていく。 今回も栞があるとは限らない、小さなヒントも見逃さないように丁寧にページをめくっていく……。 無いか。 本棚の本を全部調べ終えた時、思わず独り言が出てしまった。 薄暗かった部室は今は照明をつけているので明るいが、外はすでに日が落ちていてグランドにも人影は無い。 探し物をしている間に用務員が一度部室を訪れたが、必死に調べ物をしている俺の姿を見て勉強の為とでも勘違いしたのかあっさりと引き上げてくれた。 次はなんだ? あいつは俺に部活を作る規則を調べさせて、自分は部室とメンバーを準備したんだったな。その後どうなった? ……最初、ここに長門が居た。 あいつがいつも居た窓際に、今はパイプ椅子は置かれていない。 そして、朝比奈さんが拉致されてきた。 ハルヒの興味が向くままに集められていった朝比奈さんの衣装がかかったハンガーは、その姿を消している。 最後に、転校してきたばかりの古泉が連れてこられた。 弱いくせに次々と持ち込んできたあいつのゲームは、部室のどこを探しても見つからない。 SOS団に関わるものは何もかも無くなっている、そんなのはわかってるさ。 とりあえず座ろうと思い、部屋の隅にあったパイプ椅子を広げて置いた時、俺の脳裏に僅かに熱をもった視線で見上げるあの宇宙人の顔が浮かんだ。 「なんだい君は。入部希望者かい?」 無駄にエアコンが効いた部室に入ってきた俺を迎えてくれたのは、奇異の目で見上げる部長氏の顔。 そしてモニターから視線を上げようともしない部員達だった。 どうみても初対面って感じだな。俺達は面識すら無いって事になってるらしい。 入部希望じゃないんですが、コンピ研に興味があって来たんです。 「はぁ?……もしかして、文化祭で我々のゲームをプレイしたのかい?」 部長氏のその言葉に俺は思わず息を飲む。 思い出されるのはSOS団に挑戦状を持ってきた部長氏、先手必勝と蹴り飛ばすハルヒ、宇宙空間を彷徨う朝比奈さん、のりのりな超能力者。 ……そして僅かに目を輝かせた宇宙人。 頼むぜ、何か手掛かりがあってくれよ? 俺はなるべく専門家っぽい表情を浮かべて部長氏のパソコンを覗き込んだ。 どこかで見たことがあるモニターだとは思ったが、これはハルヒが強奪した例の最新型パソコンじゃないか。 あるべき場所にあると違うように見えるもんだな。 不審げな視線を送ってくる部長氏を無視しながら、俺は言葉を選んで話し始めた。 The Day Of SagittariusuⅢには、チートモードがある。 俺の言い終えるのと同時、部室の中に響いていた無機質なタイプ音が瞬時に止まる。 「……な、何の事だい?」 声は笑っていても、モニターに写ってる顔が笑ってないぜ?部長さん。 索敵モード、オフ。 続く俺の言葉で、部員の間に緊張が走るのがわかる。そして何より部長氏の顔は引き攣っていた。 さらにワープ機能。 「ど、どうやって調べたんだ?配布版には編集機能は無いし、何よりロックしてあるプログラムを解析できるなんてただの高校生とは思えない……君、名前は?」 急に熱意に満ちた目で見つめてくる部長氏に、俺は何て答えればいいのか? ここで答えるべき名前はこれしかないだろう、ある意味俺には魔法の言葉だ。 ただの一般人でしかない俺に、ほんのちょっとの勇気をくれる名前。 ……待ってろよ?ハルヒ。 俺は久しぶりに胸を張って口を開いた。 聞きたいのはハンドルネームですよね?俺はジョン・スミスです。 それから俺は部長氏にSOS団の事を聞いた。まさか知って無いだろうと思ったのだが、 「ああ、知ってるよ。僕のお気に入りにいつのまにか登録してあったんだ。カウンターとTOPページがあるだけのHPで何なのかわからないんだけど、 何故か消去する気になれないんだ」 一気に道が開けたのかと期待した俺だったが、残念ながら部長氏が知っているのはそのサイトだけで、長門や古泉、そしてあんな事があった朝比奈さんと ハルヒの事も知らなかった。 それにしてもあいつの痕跡が何故この世界に残れたのか? 俺に正確な答えが出せるとは思えないが、あのサイトはハルヒが指示して、俺が作った物だ。 つまりこのサイトは、シンボルマークを除けばパソコンに向かう俺の後ろでがなってた指示だけしかハルヒは関わっていない事になる。 ここで正確な事がわかるはずもないが、とにかく俺はみんなとの繋がりを見つけた事に喜んでいた。 部長氏のパソコンでさっそくそのサイトを見せてもらうと、そこにはあの長門改編による「ZOZ」団のロゴが現れる。 カウンターは一万を超えたままだ、数日前に見たはずなのに懐かしさがこみ上げてくるのを止められないぜ。 URLに数行足して、編集者モードに入りログインパスワードを入れる。 「これってあんたのサイトなのか?」 パスワードは正確に認知され、画面は編集画面へと切り替わった。よかった、間違いなくこれは俺が作ったサイトらしい。 まあそんなもんです。 「もしかして……他人のパソコンのお気に入りに自動登録させるウイルスか何かなのかい?凄い技術じゃないか!」 変な方向へ勘違いしてくれている部長氏は無視したまま、俺はブラウザを閉じて、次の行動に移った。 スタート、検索、対象はドライブ全部で形式はJPG・・ 「ちょ、ちょっと待ってくれ?」 ああ。そうか、高校生のパソコンに見られたらまずいものがないわけないよな。 検索対象を変更、フォルダ名mikuruを検索。 ……だめか。 検索結果は0件が表示されている。 朝比奈さんの存在が無かった事になってるのに、画像が残ってるわけないか。 「い、今のはなんだったんだい?もしかして君のプログラムの痕跡を探してみたとか?」 適当な言い訳を考えるまでも無い、部長氏は勝手に勘違いを継続してくれているようだ。 まあそんな所です。 少なくともこれで、実は俺は精神障害者で今までの出来事は全て妄想に過ぎなかったなんて事はなかったわけだ。 だからといって状況が好転しているって事でもないけどな。 部長氏にパソコンを明け渡し、また来ますとだけ言い残して俺はコンピ研の部室を後にした。 う~寒い。 そう自然に口から出るほどに、いつの間にか外の気温は下がっていた。 地球温暖化の影響って奴かは知らないが、日中と気温の差がありすぎるんだよな。 防寒面でまるで役に立たない冬制服を恨みつつ足早に校門を出て、そのままいつもの下り坂を降りていく。 すでに周りに生徒の姿はない、まあ街灯がついてるような時間だから当然といえば当然だ。 寒さを振り払うように自然と速度を上げて歩いて行くと、次の目的地である女子校が見えてきた。 自然に思い出されるのは髪の長いあの世界のハルヒと、思いっきり足を蹴られた時のあの痛みだな。 ふと、女子高の前に誰かが立っているのが見える。 それは腰辺りまで伸びた長い髪に、黄色いカチューシャをして……って。 寒さに震えていた体がさらに温度を下げた気がしたのに、それは不快な寒さではなかったというかなんとも説明しようがないね。 気のせいでなければ、その人影もどうやらこちらを見ているようだ。 距離にして30メートル程度しか離れていないから、顔までは見えないだろうけど俺の姿は確認できていると思う。が、何のリアクションもない。 気がつけば止まっていた足を何とか前に踏み出す。 何故俺はびびってるんだ? あれがもし、「あの時のハルヒ」だとしても、俺が恐れなくちゃいけない理由なんて何もないはずだ。 それに俺は女子高があの時みたいに共学に変わっていて、ハルヒが居る事を望んでいたはずだろ? だからこうしてここに居るのに、無駄に激しい胸の動悸は治まりそうにもない。 そして残り10メートル程の距離まで来た、……すかさず漏れる溜息。 おいおい、俺はどうあって欲しかったってんだよ。 そこに居たのはハルヒでも、そしてあの時のハルヒでもない――ただの知らない女生徒だった。 近づいてきた俺が自分を見ているのに気づいて、女生徒は小さく会釈しながら不審げな眼をしている。 まあそうだろうな、通りすがりの男子高生が自分を見ていきなり溜息をついてんだから。 俺も適当に会釈のような素振りをして、足早にその場を通り過ぎた。 横目に見た女子高はどう見てもいつもと同じ校舎のまま、これまたよく見れば女生徒の制服もいつもの女子高の物のままだった。 軽い失望と不思議な安堵感と共に次に俺が向かったのは……。 手慣れた操作でタッチパネルを操作していくと、安っぽい電子音とともに自動扉は開いていく。 覚えていた暗証番号が使える、って事は少しは期待できるかもしれないな。 公園を出て例のマンションへとやって来た俺は、久しぶりに自信に満ちた顔でさっそく長門の部屋へと向かった。 しかし現実って奴は厳しい。 708号室の前に取り付けられたインターホンはいくら鳴らしてもなんの反応もなく、当然オートロックで守られた扉は固く閉ざされている。 留守……って可能性もなくはないが、あいつが部室とマンション以外で行きそうな場所となると図書館くらいしか思いつかない。 その図書館だってこんな時間じゃもう閉まってるよな。 違う人が出てこなかっただけまだ救いはあるが、それだけで喜べるほどプラス思考にはなれそうにないぜ。 他の三人の家なんて知らないし、覚えていた携帯番号も全員そろって使われていないのガイダンスが流れてくる。 何をしていいのかわからない時間が、確実にやる気のゲージを削り取っていく。 ……これからどうすればいいんだ? ドアに背を向けてもたれると、視界にはネオンに彩られた夜の街がどこまでも広がっている。 長門の世界で時間制限をかけられてた時の方がまだよかったよな。 あの時は制限があったからこそ可能性もあるんだって思えていたが、今回みたいに何のヒントも何の手がかりも……というよりも、 可能性すら感じられない状況では期待し続ける事が難しい。 見知らぬ上級生になっていた朝比奈さんも、転校して来なかった古泉も、文芸部で一人過ごしていた長門も居ない。 そして、ハルヒも。 もうあきらめろよ? そう、自分の中の理性が言っているのがわかる。徒労感が味方しているのか今度の理性はやけに強気だ。 ただ、平凡な日常に戻るだけだろ?それに慣れるように努力した方が前向き。違うかい? ……そうかもな。 今の言葉、本気で思ってるか?考えてもみろ、これから進路だテストだって忙しくなる。そうなった時に今までみたいな事をしてたら後で後悔するぜ? そう考えたら、今の状況は悪くない。やっと周りの連中と同じに戻れただけじゃないか。俺の言葉に反論できるんならしてみろって。 ……。 何事もな、済んでしまったら寂しくなるんだよ。ゲームが終わってもアニメが終わっても恋愛が終わってもな。そうなった時に未練たらしく思い続ける よりも、他にやるべき事を見つけて努力する事が人生において最も大切であってだな。 黙れ。 思わず声が出た自分に驚きながらも、俺は急いで左右を見回した。 ……よかった、誰もいないか。 末期症状だな。いくら突っ込む相手が居ないからって、自分で自分に突っ込んでどうするんだよ? 突然、静かな廊下に携帯の着信音が鳴り響く。 コンクリートの壁に反射されたそれが響き渡る中、俺は急いで携帯を取り出して相手も確認しないまま受話ボタンを押した。 「あ、キョン君?今日は遅いね!どうしたの?」 甲高い妹の声を聞きながら小さくため息をつく、そういえば連絡してなかったな。 悪い、今日は遅くなるから夕飯は要らないって伝えておいてくれ。 「おかーさーん。キョン君ごはんいらないってー…………うん…………お母さんが何時に帰ってくるのって?」 わからん。 「わからんってー」 妹がおそらく母親へ向かって叫んでいるのであろう無駄にでかい声を聞きながら、俺は通話終了のボタンを押した。 そしてそのままマナーモードに設定して携帯をしまう。 これからどうすりゃいいのかも、もうわかんねーよ。 それからしばらくの間、無音で振動を続ける携帯を無視したままで俺は変わらない様で変わっていく夜の街並みを眺める事にした。 ――どれくらいそうしていたんだろう。 いつの間にか冷たかったはずのドアは俺の体温でそれなりの温度に上昇していて、代わりに夜の外気にさらされていた俺の体は冷え切っていた。 うわ、もうこんな時間かよ? やれやれ……結局4日連続で日付を超えるまで起きてる事になるな。 取り出した携帯の時間にため息をつきながら、俺はエレベーターへと向かって戻り始めた。 安全の為か常時照明がついているエレベーターのフロアに辿り着くと、階数表示のパネルの数字がゆっくり増えて行くところだった。 なんとなく下を押すのが躊躇われて待っていると、階数表示はそのまま数字を増やしていきやがて俺が居る階。つまりは7階にたどり着いて止まった。 エレベーターの扉が開くとそこには……。 「お久しぶり。……何よ、そんな不思議そうな顔をして」 そいつは当たり前の様に俺の手を掴んでエレベーターへと招き入れると、そのまま5階のボタンを押した。 7階に用があったんじゃないのか? 「久しぶりに帰ってきたクラスメイトに、そんな冷たい態度はないんじゃない?」 そいつは無邪気な様で邪気たっぷりにしか見えない顔で俺の顔を見ながら笑っている。 つい先日刺されたばかりの俺が間違えようもない――そいつはどうみても朝倉涼子だった。 エレベーターの中には何故か大量の荷物が山積みに置かれていて、しかも朝倉はこの寒さの中でどうみても夏向きな半袖の服を着ている。 「何でこんな格好なのか気になる?」 別に。 お前が男装をしていようがメイド服を着ていようが知ったこっちゃねーよ。 「無理しないの。貴方の力になる為に戻ってきてあげたんだから」 俺の力に?お前が? 台詞が終わるのを待っていたかのようにエレベーターは下降を止め、扉が開いていく。 「荷物を運ぶの手伝ってもらえるかな?重くて大変だったの」 嘘つけよ。どう考えても普通の女一人で運べるような荷物の量じゃないが、お前が普通じゃないって事ぐらい覚えてるぞ。 と、言いたかったのだが。俺は素直に朝倉の部屋まで荷物を運んでやることにした。 やっと見つけた手がかりだ、たとえ自分を2度も殺そうとした相手だからって嬉しくないわけじゃないしな。 朝倉の部屋、505室の中は長門の部屋と同じ間取りなのだが壁紙もカーテンも無く長門の部屋以上に殺風景だった。 「一人暮らしの女の子の部屋に入れたからって、変な事考えちゃダメだからね?」 馬鹿な事を。 変な事ってなんだ、情報連結の解除か? 俺の言葉に、朝倉は驚いたような嬉しそうな表情を浮かべた。 「ふ~ん……って事は君は全部覚えてるんだ。やっぱりね」 エレベーターと部屋を十数回往復してやっと荷物を運び終えた俺がソファーに座っている回りを、朝倉は楽しそうに歩いては次々と荷物を開封していく。 ふと目についた荷物のタグには、見慣れない英単語が並んでいた。 まあ見慣れた英単語なんて無いんだが。 朝倉、お前どこか外国へ行ってたのか? 「私がどこへ行ってたのかは知ってるでしょ?」 紐で縛られた食器を運びながら朝倉は笑っている、俺が知っているだって? 俺が知っているお前は長門に消滅させられて、建前上カナダへ行った事になり。その後、俺を殺そうとしてだな。 「今言ったじゃない」 なんのことだ? 「私は建前上、カナダへ行ったのよね」 そうだな。お前が消えちまった事を長門がそうやってごまかしてくれたんだろうよ。 「ヒント、涼宮さんが思った事はいったいどうなりますか?」 何を突然……。 「いいから答えてよ」 ハルヒが思った事はその通りになっちまう。これでいいか? 「正解!長門さんが私の情報連結を解除した事を涼宮さんは知らない。そして私はカナダへ行ったと聞いた……」 思いつくまでに数秒かかった。 ……まさか! 驚く俺を見て、朝倉は嬉しそうに笑っている。 ハルヒは朝倉が転校したと本気で思ってる、なんせ実際にここまできて探しまくったんだからな。 だから本当は消えてしまった朝倉は、ハルヒの思い込みのせいで本当にカナダに行った事になったってのかよ? 「長門さんも私がカナダに再構築されてた事には気づかなかったみたいね。……でもそれって、気にしてなかったからチェックもしなかったって事だから ちょっとショックだけど……そのおかげで助かったんだから、結果オーライって所かな」 それで?何で帰ってきたんだ。3度目の正直で俺を殺したくてか? 1度目はナイフが掠っただけ、2回目は奇跡的に致命傷にはならなかったがしっかり突き刺してくれた。次はなんだ? 「3度目?」 覚えていないというよりも本当に知らないらしく、朝倉は不思議そうな顔で俺を見ている。 ああ、あの時の事は知らないのか。気にするな。 「気になるから教えてよ?それに涼宮さんが居なくなった今、私は貴方に殺意なんて持ってないから安心して?」 その言葉に俺は少なからず、いやかなり動揺した。 何でハルヒが居ない事を知ってるんだ?いや、それよりハルヒが居ないのを知ってるならなんでここに来たんだよ? 「そんなに一度に質問しないで、それに私が先に質問してるの。質問に質問で返すなんていけないよ?まずはそうね……涼宮さんの居なくなった時の話がいいな」 そう言って俺が座るビニールに包まれたままのソファーの向かいにあった、まだ封を開けていない段ボールの上に朝倉は座った。 どうやら話を聞くまでは何も教えるつもりは無いらしい。 終始嬉しそうな顔をしている朝倉相手に、俺はこれまでの事を話し始めた。 俺は昨日の事は一生誰にも話せないだろうと思っていたが、本当はやっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしない。 一度開いた口は止まらず、聞き役に徹している朝倉相手に俺はゆっくりと事の顛末を話していった……。 3日目 「ねえキョン」 なんだ? 「なんだかさ、休日の校舎って不思議な感じよね」 そう聞いてくるハルヒは、極上のスマイルに少しの緊張をブレンドした顔で……惚気でしがないが、俺はそれを素直に可愛いと思った。 もちろん今日もハルヒはポニーテール、三日連続だが一向に飽きる気がしないね。 あの日。 結局、一日俺の部屋で過ごした俺とハルヒなのだが。 ハルヒのポニーテールを触っている時に妹が乱入してきてからは特に何事もなく、妹相手にハルヒが暴れまわって何故か料理大会にゲーム大会と続いて いつの間にか日付が変わっていた……とまあそんな感じだった。 つまりは、朝比奈さん(大人)が言うような展開も何一つ起こらなかった訳で、俺は密かに危険は回避できたと思っている。 ハルヒと、その、なんだ。表現する事に制限がかかるような展開があってみんな消えるって奴の事だ。 少なくとも、俺とハルヒの間にそんな出来事はなかった断言できるぞ。 「朝比奈みくるの異時間同位体が知っている知識は、これから起こるはずであった選択肢の一つ」 ハルヒが帰った後、これでもう大丈夫なのか?と長門へ送ったメールの返事がこれだ。 なんとも素敵にわかりにくいが、なんとなく意味は通じる気がする。 でも、朝比奈さん(大人)が言う歴史通りにはならない可能性もあるんだよな? と聞いてみると。 「絶対の歴史はどこにも存在しない」 という何とも頼りがいのある返答が返ってきた。 「何にやけてんの?」 ん、いやなんでもない。 「変なキョン」 にやにやしている俺に疑いの眼差しで見つめるハルヒだが、流石に今の俺の心境までは見通せないだろうよ。 静かな部室棟を俺達二人は歩いて行く、目的はもちろんSOS団の部室だ。 部室のドアの前で俺はふと足を止めた。 「何見てるの?」 ん?ああ、これだ。 俺が指さしたのは、文芸部の看板に張られたハルヒ直筆のSOS団と書かれた元A4紙だ。 「ああ、これね。ちゃんとした看板の方がいいのかな」 隣に立ってハルヒも看板を見上げる。 そうじゃなくて、俺はSOS団が解散したなら文芸部に部室を明け渡すべきじゃないかと思ったんだが……まあいいか。 俺はお前が書いたこれも好きだけどな。 そういって俺は部室の扉を開けたのだが、何故かハルヒに背中を叩かれた。 何故だ? さて、どうして俺達がわざわざ休日の部室棟なんて所に居るのか?と思っている人も居るかもしれないな。 それにはちゃんとした訳がある、つまりは俺とハルヒの関係は結果的に彼氏彼女、俗に言う恋人って状態になったわけだ。 だが、さっきも言ったが朝比奈さん(大人)の予言には続きがある。 あの時は思わず流してしまったのだが、予言によればハルヒの告白、付き合いだす、そして……なんというかまあ、二人ははじめて結ばれるとあのお方は 仰ったわけだ。 この予言を回避する為に、俺はハルヒに明日は部室へ行こうと提案してみた。 いくらなんでも学校でそんな展開にはならないだろうし、部室ならいくらでも遊びようがあるからな。 それに、テスト明けの休日にわざわざ学校へ来るような向学心溢れる生徒は北校には一人も居ないだろう。 休日の最終日に部室へ行こうと言った俺をハルヒは不思議がっていたが、説得するまでもなくあっさりと承諾した。 「はい」 そう言って差し出されたお茶を手に取ると、 「み、みくるちゃんには敵わないと思うけど」 と、ハルヒはあわてて付け加えた。 まだ何も言ってないぞ、それにな。 「それに……なによ」 美味しいぞ、これ。 「ばっ!……ありがとう」 一瞬お盆を振り上げたハルヒは、そのまま後ろを向いてしまった。 本来、礼を言うのは俺の方なんじゃないだろうか?とも思ったがハルヒは嬉しそうにお盆を片づけに行く。 熱いお茶が心も体も温める感覚に酔いしれる、お茶はいいねえ。 二人っきりの部室は妙に広く感じて、なんとなく俺は長門の世界に迷い込んだ時の事を思い出していた。 静かな部室で、一人本を読んでいた眼鏡をかけた長門。 そういえばあいつは向こうの世界では何か小説を書いてたんだっけ? 結局読めなかったな。 鶴屋さんと仲良く、ごくごく普通の高校生活を送っていた朝比奈さん。 ……残念だが、俺の事は間違いなく不審者という認識で終わっているだろう。 不機嫌オーラ全開でぶつけようのない力を持て余してたハルヒと、そんなハルヒに好意を寄せる古泉。 二人は俺が居なかったらどうなるんだろうか?実らぬ恋で終わる……いや、案外うまくいくのかもしれない。 あいつらはみんな居なかった事になったんだろうか? それとも、俺にはわからないどこかでまだ続いているんだろうか? ――俺の居ないSOS団として。 「ね、ねえ」 ん? いつもの団長席に座ったばかりのハルヒが、パソコンの隣からこちらをちらちら見ている。 「そっちに行ってもいい?」 いいも何も朝比奈さんは今日は居ないし、お前の好きな所へ座ればいいだろ? と、思わず言いそうになったがここはそんな事を言うべきじゃないよな。 俺が黙って隣にあるパイプ椅子を手前に引くのにあわせて、ハルヒ顔に笑顔が浮かんだ。 少し赤面したハルヒが俺の隣に大人しく座っている。 それはそれで可愛いと思うんだが、何も話しかけてこないハルヒ相手に俺はどうしていいのかわからなかった。 誰に頼まれた訳でもないのに、不定期にとびっきりの面倒事を持ち込んできたハルヒが急に大人しくなってるんだ。無理もないだろ? だからといってこのまま病院の待合室のごとく並んで座っているのもなんなので、俺はなんとなくハルヒの手を握ってみると。 倒れるパイプ椅子と脊髄反射的に立ち上がるハルヒ。 「なんで離すの?」 お前は何を言ってるんだ? 手を振り払って立ち上がったのはお前じゃないか。 それに、お前が立とうとしてるのにそのまま掴んでたら倒れるだろ? 「ご、ごめん」 そういって座りなおしたハルヒは、おずおずと手を伸ばしてきた。どうやら握ってもいいという事らしい。 俺はそっとその手を掴んでみる。一瞬ハルヒの体がびくっとなったが、今度は逃げられなかった。 軽く握っている俺の手にハルヒの指がゆっくりと触れてくる。 うつむいているからよくわからないが、前髪の間から見えるその顔は真っ赤になっていた。 キスは無理やり奪えても、ハルヒにとっては髪を触られたり手を握られるのは恥ずかしい物なのかもしれん。 いつも俺を連れまわしてる時は、襟首だのネクタイだの好き勝手に掴んでたのに何で今日は恥ずかしそうなんだ? 「あれは!その、まだ団長と団員の関係だった時の事じゃない。今は違うから、これも違うの」 そうなのか。 「そうなの」 嬉しそうに言い切るハルヒを見ていると、俺も何故か嬉しかった。 この感情を文字にするなら多分、好きって言葉がすんなりと当てはまるはずなんだが、それを言葉にするのは恥ずかしいというか躊躇われるのは何故だろうね? 相手がその言葉を望んでいるだろうと思って、自分も伝えたいのに言葉にできない。そんなもどかしい感情を人は…… 「何考えてるの?」 いつの間にか多少顔色を平常に戻していたハルヒが俺の顔を見つめていた。 ハルヒな目に俺の緊張した顔が写っている、おいおい俺はこれからどうするつもりなんだ? ハルヒ。 俺の呼びかけをどう取ったのかわからないが、ハルヒは俺を見上げたまま目を閉じる。 これはつまり、その……。 昨日しておいて今日出来ないって事もないのだろうが、 「えええ!」 突然の大声は俺達の背後、隣の部屋から聞こえてきた。 それは残念ながらというか可憐な女子生徒といった声ではなく、男子生徒の狼狽したような声にしか聞こえない。 続いて聞こえてくるドアを開ける音、それに続く小さな足音とあわただしい足音。 「ま、待ってくれ?君が居なくなるってどういう事なんだい?」 入口のドアにある窓越しに見えた人影と、聞こえてくる声にも聞き覚えがある、あれはコンピ研の 「部長?」 俺とハルヒの声が重なった。 そっとドアを開けてみると、そこにはいかにもインドアそうな華奢な体つきの部長氏が、その体ですら隠せてしまうような小さな長門の肩を掴んでいた。 そんなに力強く揺さぶっているんじゃないのだろうが、長門はまるでマネキンの様に前後に揺さぶられるがままになっている。 「詳しく説明してくれないか?もうここには来れないってどんな意味なんだい?いや、それはまあ君のレベルから見れば僕らと一緒にいる時間に意味なんて 微塵もないんだろうけど……ってそうじゃない、居なくなるってどういう事なんだい?」 廊下に顔を出した俺と、困った様なそうでもないような顔で揺さぶられるままだった長門と視線が合う、 その目には、ありえないはずだが驚きといった感じの感情が浮かんでいるような気がした。 「ちょっとあんた!有希に乱暴するなんて何考えてるのよ!」 言葉と同じ速度ではないかと思う速さでハルヒが部室を飛び出していく。 以前、部長氏に問答無用で飛び蹴りを入れたお前が言うのもどうかと思うが、言ってることは正論だな。 でもお前が言うと不思議な気持ちになるのは何故だろう。 見ているだけに耐えかねたのだろう、言葉だけでなくハルヒが部長氏に掴みかかっていく。当然肩などではなく、襟だ。しかも片手で持ち上げてやがる。 それを乱暴と呼ぼう。 酸欠で弁論する機会を酸素的に奪われている部長氏には悪いが、先に長門だな。 まるで当事者ではないかのごとく平然とした顔で立つ長門に駆け寄った、急がないと部長氏が危ない。 長門、お前居なくなるって本当か?それってどういう事なんだ? 例の件はフラグ的に回避してる気がするから多分大丈夫だぞ? なんてハルヒの前では言えないが。 そう聞かれた長門は、ただじっと俺の顔を見ていて……不思議なことにそのまま視線を下へと向けてしまった。 俺にだけ聞こえる小さな声で長門は呟く。 「涼宮ハルヒは私にこの部室に居て欲しいと望んだ、だから私はここに居る。しかし同時に貴方と二人きりで居たいとも望んでいる。貴方達が部室に 近づいて来たのを感じてコンピ研の部室に隠れていた」 なんだそりゃ?っていうか居なくなるって話と関係なくないか? 「原因は不明。ここ数日、涼宮ハルヒの力は徐々に弱まってきていた。でも今は、これまでで最も大きい力を感じる。恐らく、彼女が望む事は 殆ど全てが現実になってしまう位に」 相変わらず長門の話は俺には理解できないのだが、俺を見つめる長門の眼からはある種の緊張のような物が感じられた。 「有希」 いつの間にかハルヒは部長氏を開放して、俺と長門の顔を交互に見つめていた。 その顔が怒っていたのならまだよかった。 俺は思わず息を飲み、言葉を無くす。 何故ならその時のハルヒの顔は、どう見ても不安そうだったのだ。 俺達の間に訪れる沈黙、静かな廊下には足元で荒い息をする部長氏の声だけが響いていた。 そんな中、遠くから誰かが階段を上ってくる足音が聞こえてくる。 「あ」 「これは」 その足音と声は。 「みくるちゃん、古泉君」 ハルヒ、これもお前が望んだからなのか? 解散したはずのSOS団のメンバーが、召集された訳でもないのに何故か揃ってしまったわけだ。 しかも人気のない、休日の部室棟に。 古泉、お前どうしてここへ? 俺の言葉に古泉は困った笑顔を浮かべる。 「どうして、と言われると困りますが。休日に他に行く当てがなかったもので」 嘘だ、それは俺でも即座にわかるレベルの嘘だった。 俺に視線を向ける古泉は、笑顔の中で必死に何かを訴えかけてきている。しかしそれが何を意味しているのかは俺にはわからない。 「みくるちゃんはどうしてここに?」 「え?あ、あの。お洋服を返す前にクリーニングに出そうかと思って……」 朝比奈さんの言葉を聞いてハルヒは口を閉ざす、どうやら思い出してしまった様だ。 俺達はもう、SOS団ではないという事に。 誰も口を開けない中。 「……なんだか知らないけど部室に入ったら? ここじゃ寒いだろう」 廊下に座ったままの部長氏が不思議そうな顔で提案してきた。 長門さんの事を後で教えてくれないか?彼女には色々勉強させてもらったから、もしも何か事情があって転校するとかなら僕達も何かしたいんだ。 そう俺に告げて部長氏はコンピ研に戻って行き、俺達は誰からともなく元SOS団の部室に入っていった。 長門がいつもの様に本棚から本を取り窓際へ向かい、朝比奈さんも迷う事無くポットへと歩いて行く。 俺は古泉の向かいに座って、ハルヒはいつもの団長席に座る。 いつもと同じSOS団にしか見えない光景、ただ俺達の間に流れる空気はいつものそれとはまったく違う物になっていた。 「はい。どうぞ」 もうSOS団はないのに、朝比奈さんはいつもの様にお茶を淹れてくれる。 その心づかいが今は何よりありがたいです。 お盆の上に並ぶ湯呑の数はいつもと同じ五人分、俺はさっきハルヒのお茶を飲んだばかりだったが小さく会釈して湯呑を受け取った。 習慣というものなのだろうか、古泉は決着間際で終わっていたボードゲームを取り出そうとしていた。 が、俺の視線を感じてその手を止める。 お前がそんな余裕のない顔をするなんてな。 一目でわかるほど、古泉の笑顔にいつもの余裕はなかった。 ハルヒはと言えば誰に視線を向けるでもなく、なんとなくパソコンを立ち上げたり窓の外を見てみたりと落ち着きがない。 誰も口を開かない中で、ハルヒのその行動はいつもとは違う意味で目立って見える。 そんな中でも長門はいつも通り無音の読書を続けていて、その部分だけ切り取ってみればいつものSOS団だと言えなくもない。 ……でも、SOS団が無かった時も長門は一人そうしていたんだろうな。 文芸部の部室で、一人読書をしていた眼鏡をかけたあの世界の長門と同じ様に。 古泉。 「え、あ。はい」 そんなに動揺するな。話にくいだろ。 何も予定がなくてここに来たんだろ?これからみんなでどこかに遊びに行くか? そうすれば朝比奈さん(大)の予言はまず間違いなく回避できるんだ。 だが、俺の思考はどうやら古泉には伝わらなかったらしい。 「いいですね。と、言いたい所ですがお邪魔になってはいけませんし。どうぞ僕の事は気にしないでください」 それは……無理だろう。 自分でもどうすればいいのかわからないのか、古泉はあいかわらず視線で何かを訴えかけている。 そうしている間も、朝比奈さんは黙々とハルヒに押し付けられた衣装をハンガーから外していき、袋の中へと詰め込んでいく。 どの衣装にも思い入れがあるのだろうか、ハンガーから外すたびに朝比奈さんは服を広げて固まったまま無言で見つめている。 「キョン」 ハルヒのたった一言の言葉に、部室の時間が止まった気がした。 団長席に座ったハルヒは、俺に向かって色々と思いつめた顔を向けている。 困ったような苦しいような、悲しいようなそんな顔で。 「……正直に言って? キョンは……」 続く言葉を選んでいるのか、ハルヒの口は言葉を紡がないまま弱弱しく動く。 古泉が何かを言おうとする気配を感じたが、俺はハルヒから視線が外せなかった。 ……なんだ?顔が動かない? 視線を外せないというのは比喩表現でもなんでもなく、俺の体は俺の意志に従って動くことを辞めてしまったかのようにピクリとも動かなくなっていた。 何が起きてるんだ? 突然の出来事に戸惑う余裕もない、表情すら変えられなくなった俺に向かってハルヒはようやく言葉を繋げる。 一度、窓際で読書をしている長門に視線を向けてから、 「あたしと一緒にいるより。ゆ……みんなと一緒に居た方が楽しい?」 まるでその言葉が合図だったかのように、俺の体は自由を取り戻す。 が、今度はハルヒへの返答を迫られた状態でやはり俺はハルヒから視線を外せなかった。 視線を向けないままだが、今古泉が俺に対して向けている視線ならすぐに意味が理解できる。 涼宮さんを選んでください。だろ? よくみれば、いつのまにか読書を辞めていた長門も俺を見つめていた。 その視線にはなんの感情もない様にしか見えないが、今は何かを訴えかけてきているように感じられる。 朝比奈さんは俺の後ろに居たので顔色を確認する事はできないが、あわあわとしている雰囲気だけはなんとなく感じられた。 数秒が数時間にも感じられる中、俺が口を開こうとすると。 「……みんな、何を隠してるの?」 俺を見つめるハルヒの顔から、表情が消えていた。 『恐らく、彼女が望む事は殆ど現実になってしまう位に』 長門の言葉が思い出された瞬間、俺は即座に後悔した。 何故なら俺は連想してしまったのだ、もしここでハルヒに知られたら最も困る事は何か、を。 「嘘でしょ」 目を見開いたハルヒが突然立ち上がり、古泉、朝比奈さん、長門へと視線を向けていく。 「キョン今のなんなの? え? ……嘘。古泉君、みくるちゃん嘘でしょ? ねえ。有希……有希? そんな、そんな事あるわけない。そんなの嫌!」 ハルヒ! 全員の視線が集まる中で、ハルヒは何かを否定するように首を振る。 「そんなの……居るはずないじゃない!」 錯乱して叫ぶハルヒに俺が駆け寄ろうとした瞬間、俺は信じられない物を見てしまった。 古泉が、朝比奈さんが、長門が。 ハルヒの叫んだ言葉に合わせて、三人とも消えてしまったのだ。 嫌な程の静寂が部室に戻る。 嘘……だろ? それは僅か数秒の間の出来事だったのに、俺は何もできなかった。 古泉が居たパイプ椅子は無人のままテーブルから少し離れた位置に置かれていて、窓際の長門の椅子には開いたままの本が置かれている。 朝比奈さんがまとめていた服が入った袋は、支える人がいなくなった事で音をたててゆっくりと崩れ、中に入っていた服がいくつかはみ出して止まった。 俺はハルヒに駆け寄ろうとしたままの姿勢で固まっている。 何が起きたのかなんて考えたくない、考えなくてもわかってしまったがそれを認めたくない。 「なんなの……なんで?キョンやみんなの思ってる事が聞こえてきて、どうして?なんでみんな消えちゃったの?」 震えるハルヒの声に、俺はなんて答えてやればいいのかわからなかった。 どうすればいい? 何かあるはずだ! あれから三日もあったのに俺は何を考えてきたんだ? 背中を伝う嫌な汗が止まらない。 なんとか自分を奮い立たせて、俺は呆然として立ち尽くすハルヒに近寄る。 ハルヒ。 「キョン、どうして?なんでみんな」 脅えが浮かぶその目をじっと見つめる。 ハルヒ、俺が今から言う言葉をそのまま言ってくれ。できれば心からそう思って言ってくれるといい。 「何それ、キョン。顔、怖いよ?ねえ」 怯えるハルヒの肩に手をのせると、ハルヒの体は大げさな程に震えた。 頼むぜハルヒ。もうこの状況を何とかできるやつはお前しか居ないんだ。 小さく息をついて、俺は言葉を選ぶ。頼む、奇跡って奴があるなら今ここで起きてくれ! 宇宙人、未来人、超能力者は私の所に来なさい。以上だ。 何言ってるの? と言い返しそうな顔をしたハルヒだったが、俺の顔が本気なのを見てぽつぽつと呟いた。 「宇宙人、未来人、超能力者は私の所にきなさい……これでいいの?」 疑いながらも素直に俺の言葉通りに呟くハルヒだったが、振り向いた俺の視界に入ったのは無人の部室だった。 嘘だろ? なんでだ? 今更だが俺の体も震えだす、それはみんなが居なくなってしまった事へのショックもある。 だがそれ以上に、この事態を招いてしまったのはハルヒの力による物だという事を知られたくなかったからだったのだが……。 「キョン」 最悪だ。 再び俺が視線を戻した時、ハルヒは声を殺して泣いていた。 最悪で大馬鹿野郎だ。 俺に何か言おうと口を開くが、ハルヒは何も言えないまま両手で顔を覆ってしまう。 最悪で大馬鹿野郎で救いようのないカマドウマ以下の糞野郎だ。 涙が流れるのも気にせずに、ハルヒは部室が震えるほどの大声で叫んだ。 「宇宙人も未来人も超能力者も居る! 居るの! だからみんな帰ってきて? 有希! みくるちゃん……古泉君……お願い……お願いするから。キョン、 あたし願ってるの! 本当よ? ……なんでダメなの? みんな……みんな。キョン、全部私のせいなんだよね?」 何故、ハルヒが願ってもみんなは元に戻れなかったのか? それは俺にはわからない。 俺にわかるのは、ハルヒに最も教えてはいけない事。 全ての原因は願望を実現するハルヒの力だという事を思い浮かべてしまった俺が、救いようのない馬鹿野郎だって事だけだ。 ただ泣きじゃくるハルヒを見ていた俺は、この上最悪の言葉まで思い出してしまう。 その言葉が思い出されるのを押しとどめようと思わず頭を振った瞬間。 「見ないで」 ハルヒの声が聞こえたと思った時、そこにはもう、ハルヒは居なかった。 机の上にはさっきまで確かにあった団長とかかれた三角錐もパソコンは無く、振り向けばそこに朝比奈さんの衣装もない。 本棚を確認する頃には俺の心は既にあきらめていた、そして思い出されるあの言葉。 ――俺だけが、残る。 古泉の呼び出しからはじまった今回の出来事で、相談した全員が出したその答え。 けだるい体を動かし、なんとか俺はパイプ椅子に体を預ける。 人事も尽くさなかった俺には天命を待つ資格すらない。 物音一つしない部室の中、俺だけが残ってしまった。 その日どうやって家に帰ったのか、果たして夕食は食べたのか。どうやって登校してきたのかも覚えていない。 ただ覚えているのは暗い自分の部屋で布団にもぐり――またハルヒにあの閉鎖空間へ呼び出さるのをじっと待っていた事だけだ。 「なるほどね」 話が終わった所で、朝倉は気を使っているのかことさら明るくそう答えた。 俺は長門がIFの世界に作り変えた事と、その世界を元に戻そうとした時に朝倉が俺を殺そうとした事も一緒に話したのだが朝倉はその話には あまり興味が無いようだった。 どうやら本当に知らないみたいだな、あの時の事は古泉も知らなかったし本当に別の世界の出来事なのかもしれない。 今度はそっちの番だろ。 俺の言葉に、朝倉は少し寂しそうな笑顔を浮かべる。 「そうね。でも最初に言っておくけど、私が全てを元に戻すことができる。なんて期待だけはしないでね?」 恐らくそれは嘘ではないんだろう、その時何故だか知らないが俺はそう思った。 「あの日貴方を殺しそこねた私は、長門さんに情報連結を解除された。そして最初に言ったように涼宮さんの認識によってカナダに再構成されたの。 何の力もない、ただの女子高校生としてね。涼宮さんにとって、私は宇宙人じゃなかったんだから仕方なかった事だとは思うけど最初は大変だったわよ。 でもまあ、貴方の話によれば宇宙人だと認識されていたら私も消えてしまってたんだろうし、これも運命って感じかしら」 軽く話す朝倉だが、俺にはそんな外国で一人取り残されても生存能力はない自信があるぞ。 よく無事だったな。 「無事とは言えないわね、だってすぐに警察に捕まってパスポートも無い私は不法入国って事になってしばらく拘束されてたんだもん…… まあ、合法的に入国してないのは確かだから文句は言えないけどね。強制送還されるかな?って思ってたんだけど、初犯だし未成年だから 保釈金さえ払えばいいって言われてそれからは自由の身。現地の領事館でパスポートも作ったし、すぐに日本に戻って良かったんだけど 特に戻る理由がなかったからカナダでのんびりしてたわ」 朝倉、お前英語が話せるのか?それとよくそんなにお金があったな。 「ああ、人間の通貨は涼宮さんを観察する上で一般生活を不自然なく過ごす為に必要だから、銀行のデータをいじってあらかじめ準備してあったの。 それに人間の使う言語なら一通り知ってるわよ、もちろん長門さんも私と同じ」 俺には、長門が流暢に外国語を話す姿ってのはどうしても想像できない。 「それで、ここからが本題ね。涼宮さんの存在が消えた時、それを私も感じたの。どうしてわかったのかなんて言われても困るけど、 多分私が涼宮さんの創造物だからじゃないかな。あの時、涼宮さんは人外の存在を否定した。だから貴方はここに残っている事ができて、私も残れた。 そして再び出会った二人、これってアダムとイヴみたいじゃない?」 大違いだ。 そう言いながらも俺は落胆を隠せなかった。何故なら、だ。 朝倉の話通りなら、この世界にはもう宇宙人、未来人、超能力者は存在しないって事になるんだろ?。 みんなを取り戻す為に必要なのは正にそんな存在だったのに、その可能性すらも残ってないのかよ?……まったく、溜息しか出ないぜ。 古泉、お前の理論は外れたな。 最後まで俺が残れたから俺が特別なんじゃなくて、俺はただの人間だから取り残されちまっただけみたいだ。 「今日はもう遅いし、続きはまた明日学校で話しましょう。また同じクラスに編入できるかどうかわからないけど、仲良くして欲しいな。あ、結局荷物も 殆ど貴方一人に運んでもらっちゃったし、なんだったら今日は泊っていってもいいよ?」 返事をする気にもなれない。 俯いたままソファーに座っている俺の横に朝倉が近づいてくる、それを無視していると朝倉はそのまま俺の隣に座った。 そのまま俺に体重を預けてくる朝倉の体温が、腕越しに伝わってくる。 「取り残された者同士仲良くするのっていけない?どうせなら、全てを知ってる人同士の方が長続きすると思うんだけどな。私と一緒に居れば、いつか涼宮さん 達を取り戻すチャンスが巡ってくるかもしれないし」 そうだな、はいはい。 ――付き合いきれん。ソファーから立ち上がろうとする俺を手を朝倉は掴んでくる、そして俺に寂しそうな視線を向けて来ていた。 そこには夕陽の校舎の中で俺にナイフを向けてきた時に見せた機械的な笑顔も、早朝の校門前で俺にナイフを刺してくれたあの時の狂気の顔もなく、 ただ寂しいと伝えてくる同級生の顔がある。 「……ねえ、キョン君」 朝倉は軽く俺の手を握っているだけで、振り払おうと思えばその手は簡単に振り払えてしまうだろう。 考えてみればいくらお金があって知識があっても、今の朝倉はただの人間なんだ。 それが外国で一人取り残されて、辛くないわけがないよな。 誰にも連絡を取らず、日本に戻らなかったのも再び自分が消されてしまうかもしれないなら当然だ。 朝倉の瞳が潤んできたのが見えた時、俺はその手を―― 乱暴に振り払った。 そっと振り払った。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4788.html
季節はもう秋。 空模様は冬支度を始めるように首を垂れ、 風はキンモクセイの香りと共に頬をそっと撫でていく。 彼女は夏に入る前に切った髪がその風に乱れて 思いの外、伸びているのに時の流れを感じている。 夏休みから学園祭まで一気に進んでいた時計の針は 息切れをしたかのように歩を緩め、 学校全体が熱を冷ますようにこれまでと変わらない日常という空気を 堅く静かに進めていく―――― 「腹減ってんのか?」 腑抜けた声と間抜け面。 「何言ってんのよ?」 「いや、随分沈んでるからひょっとしてダイエット中で 朝飯でも抜いてんのかと思ってな。飴食うか?」 「うっさいわね!大体、私みたいな若くて可愛い女の子にはそんなもの全っ然必要ないの。 飴は一応、貰っとくけど。」 「はいはい、自分で言いますか。まぁ、お前は人一倍食い意地張ってるしな。」 「あんた、馬鹿なだけならまだしも的外れでデリカシーも無いなんて駄目にも程があるわ。」 「お前だけには言われたくないという突っ込みどころ満載だな、おい。」 「あぁ!!もう、うっさいわね!」 こんなんじゃ頬杖つく腕も痺れてくる。 「私にだって考え事の一つや二つくらいあるのよ。 秋はパーッとしたイベントが少なくて嫌になるわ。」 「考え事ね…まぁ、学園祭からここまでずっと勉強ばっかりだからな。 俺もパーッとやりたい気持ちはあるが、遊んでばかりもいられないだろ? 俺達は学生で学生の本分は勉強だからな。」 「そのくせしてろくな成績も取れないあんたは何なのよ?」 なかなか痛い所を突いてくるね、ハルヒ。 「なんか面白い大事件でも起きないかしら。」 おいおい、勘弁してくれ。そうそう大事件が起きてたら繊細な俺の身が持たん。 この1年半、こんな他愛無いやり取りをこの2人は 何回繰り返してきただろう? 彼も彼女も気付いてないのかもしれない。 いや、気付いていても今の2人は口に出しはしないだろう。 この言葉の交換が、この時間の共有が何よりも特別なものである事を。 何も変わらない、宇宙人も未来人も超能力者も現れない事に 辟易し、言葉さえも忘れたような彼女の灰色の日常に 彼が優しく彩りを添えてくれた事を。 まぁ、付け合わせの人参くらいにはなってるかもね、 等と彼女はまた素直じゃない答えを返すだろう―――― 必殺!ペンで背中を串刺しの刑!! 「いって!!!!」 凍り付いた。 クラス中の奴らが見つめてくる中、黒板で世界史を解説中だった教師は 「どうした?」と切り出し、俺はうやむやに誤魔化し何とか切り抜ける。 そして、次は後ろに座っているこの馬鹿を訊問しようとした時、 「ねぇ、キョン!昼休みに一回部室に行ってから学校抜け出すわよ。 あんたもついてきなさい。これは団長命令よ。」 相変わらずだが、唐突過ぎて意味がわからん。 「何言ってんだ。大体…」 「黙りなさい。」 前の教師と後ろの団長様から同時に最終宣告。 4限目が終わるとすぐハルヒは俺のネクタイを掴みペットの如く、 部室まで引きずっていった。痛い、苦しい、離せ。 「あら?有希。昼休みもここで本を読んでるなんてもうお昼食べたの?」 「俺も昼飯の時間なんだけど…」 「……読書週間。」 「ん?」 「本日より2週間、読書の力によって平和な文化国家を形成するという目的の元、 出版社、図書館、マスメディア等の公的機関より本を読む事を推奨されている。」 何となく聞いた事はあるが、意識した事も実行した事もほとんどないあれだな。 大体それ、普段の長門と変わらんじゃないか。 それになんかお前が言うと宇宙国家建設の標語みたいだぞ。 「有希は読書って訳ね。まぁ、良いわ。でもね、秋は読書だけじゃないわ。 閃きというか、さすが私はSOS団団長として目の付け所が違うと思うのよね。」 というか、ここは本来文芸部の部室だから長門の意見に従うべきだ。 だが、ハルヒはパソコンの電源を入れながらいつもの太陽のような笑顔になっていた。 「次は何を思い付いたんだ?お前は。」 「ふっふっふっ…ハロウィンよ!!小さい頃、読んだ絵本には 魔人、ドラキュラ、フランケンシュタイン、魔女、 黒猫、コウモリ、ゾンビ、黒魔術なんかが出てきて 事件と謎の匂いがプンプンする話だったわ。 という訳で今週はハロウィン調査を開始するの。 ハロウィンってまずはコスプレから始まるのよね。 だからまずは全員どんなコスプレにするかパソコンで調べないと!!」 おいおい…今週はSOS団全員でコスプレかよ。 「へぇ~、ハロウィンではお菓子を配るのね。ついでに秋の味覚も集めちゃおうかしら?」 それはもう美味いもん食いたいって方がメインになってないか。 頼むからとめてくれ、長門…駄目だ、こりゃ…興味を持っちまった。 そういえばお前もヒューマノイドなんちゃらの割には食欲は凄いタイプだったな。 「ハロウィンパーティーですか、面白いアイデアですね。」 いつからいたんだよ、古泉。 そして顔が近いんだよ。あまりニヤケてるとカボチャにしてくりぬくぞ。 「じゃあ、決定ね。古泉君、みくるちゃんと あとせっかくのパーティーだから鶴屋さんにも伝えといてくれる? 受験勉強の邪魔でなければって。」 邪魔に決まってんだろ。 それに案の定、パーティーメインになってるじゃないか。 「わかりました。」 「じゃあ行くわよ、キョン」 やれやれ。 ケルト民族のハロウィン祭ではひとつの大きな篝(かがり)火から 村の家々に火を分け合う事でお互いを共通の絆を持つ一つに繋がった輪としている。 SOS団にとってその絆は涼宮ハルヒという大きな篝火を中心にして出来たものだろう。 しかし1人だけ、彼だけは言わば彼女という篝火にとって種火とも言える存在。 どちらがどちらを照らしているのだろうか? 優しく暖め合う事もあれば、全てを燃やし尽くしてしまう事もある。 彼女にとって本気で喧嘩をしたのは彼だけなのかもしれない。 彼女にとって本気で誰かを愛したのも彼だけなのかもしれない。 坂道をボールのように転がる。 街はパステルカラーに染まり上がり、何だか切な~い秋の午後。 女の子と2人で授業をサボって昼休みに学校を抜け出す。 そんな甘酸っぱい青春の背徳感。 ただ相手は… 「ちょっとキョン!!聞いてんの!?」 …こいつだ。 「有希はやっぱりキャラ的に魔女よね。 みくるちゃんは猫耳とタイツで黒猫ね。 小泉君はドラキュラなんてどうかしら?」 「あぁ…良いんじゃないか」 「あんたは…」 「俺もやんのか!?」 「あったり前でしょ!!あんたはそうね…カボチャで良いわ。」 なんで俺だけ野菜なんだよ…。 「鶴屋さんはいたずら好きの幽霊って感じね。 私は何にしようかしら…」 ……魔人 「誰が魔人よ?誰が!!」 …口に出ちまったか。 「私は、うん、まずは私の家に行きましょう!!」 お~い、一人で納得すんな。 はい現在、場面は飛びまして、 ハルヒの家のリビングで待機中です、どうぞ。 ご両親は仕事かなんかかね?誰もいない。 魔人が一人でドタバタ暴れる音だけが響く。 「キョン!!」 やれやれ、今度はなんだ… 「ちょっとこっち来て。」 「どうした?」 「棚の上にあるカボチャを取って欲しいのよ。」 「棚にカボチャ?」 「仮装用のカボチャよ。」 なんでそんなもんが家にあるんだよ…ほれ。 手持ち無沙汰だからとりあえずハルヒについてくか。 「次は私の…ちょっとここで待ってなさい。」 「ん?どうした?」 「いいから!!」 ハッハ~ン、この扉がハルヒの部屋だな。 「お邪魔しま~す。」 「ちょっと!!やめなさい!!」 あら?意外と綺麗で可愛い部屋。 もうちょっとエイリアンのポスター的なもんとかあるのかと思ってたが… おいおい、熊のぬいぐるみって柄じゃないだろ。 「何、人の部屋をジロジロ見てんのよ!?」 「いや、意外と可愛い部屋だな。」 「バッカじゃないの!!座ってなさいよ!大人しくしてなかったら死刑だからね!!」 「ハルヒはこの熊に名前とか付けてるのか?」 枕が飛んできた。 あ、ちょっと良い匂い。 あれ?メールが来てる。 From:朝比奈さん タイトル:ハロウィンパーティーの件 本文:了解で~すヽ(=^゚ω゚)^/ 楽しみにしてますO(≧▽≦)O あと、鶴屋さんと私もお菓子と秋の味覚を用意しますね♪ダキ♪(●´Д`人´Д`●)ギュッ♪ ところで今回はどんな衣装になるんでしょうか~?・・・( ̄. ̄;)エット( ̄。 ̄;)アノォ( ̄- ̄;)ンー 楽しみですか朝比奈さん、いつもよりもっと際どいコスプレさせられるんですよ… From:古泉 タイトル:無題 本文:今朝まで発生していた閉鎖空間も消えてくれて、 機関も僕もあなたにはいつも感謝しきりです。 お礼といっては何ですが、僕と機関から 今回のハロウィンパーティーに幾分かの差し入れを出します。 涼宮さんの事はあなたにお任せします。 では、頑張って下さいねp|  ̄∀ ̄ |q ファイトッ!! 古泉、お前は絵文字なんか使うな、気持ち悪い。 「お~い、ハルヒ。朝比奈さんと古泉からメール来てるぞ~。 鶴屋さんと3人、お菓子とか用意してくれるってよ。」 「さすがSOS団の役員だわ、あんたみたいな雑用係とは違うわね。」 「そりゃ悪うございました。」 「人の枕で雑魚寝するな!!」 良い匂いだったぞ、ハルヒd( ̄◇ ̄)b グッ♪ 秋の空というものはどうにもうつろいやすいもので それを人の心に例えたりもしますが、雨には気持ちもしょげるもの。 夕方になり降り出した雨は雨脚を強め、街をオレンジ色から灰色に変えていく。 やたらスモークチーズの香り漂うSOS団の部室では 3人が三者三様の時間を過ごしています。 朝比奈みくるは妙な沈黙に耐えられなかったのであろう… お茶を2人に差し出しながら話し掛けてきました。 彼らがいない時にこうやって会話を交わすのは慣れないものです。 「涼宮さんとキョンくんのいない部室って静かですね。」 「そうですね。こういう部室も嫌いではありませんが、やはり物足りないですね。 ところで鶴屋さんはどこへ?」 「チーズに合う飲み物が必要とかでどこかへ行ってしまいました。」 「それは危険な香りがしますね。」 その時、大きな足音が聞こえたと思うと勢いを付けて扉が開きました。 「お待った~!!」 鶴屋さんでしたか。 「おっや~、あの2人はまっだ帰ってきてないっかな~? ま~たどっかでイチャついてんのかね~?」 「鶴屋さん、それ…」 「あぁ、ワインっさ!」 「だ、大丈夫なんですか~?受験前に。」 「めがっさ美味しいにょろ!まっ息抜き♪息抜き♪まずは軽く一杯。」 息抜きの範疇を超えてますね。 「遅いですね~涼宮さんとキョンくん…」 と、音も立てずに静かに扉が開くと雨でずぶ濡れの彼が1人で立っていました。 非常に嫌な予感がしますね。 「あれ?涼宮さんは?」 「分からん…」 「ハルヒ…重い…」 「あんたは雑用係なんだから文句言わずに歩く!」 やれやれ…どんな衣装が入ってるんだ、この鞄。 「次はどうするんだ?」 「次はお菓子ね。鶴屋さんやみくるちゃんや古泉君が 用意するって言っててもそこは私達も負けられないわ。」 そこは負けとけ。向こうは組織ぐるみだ。 「おいおい、そんなに派手にやる訳にはいかんだろ。 特に朝比奈さんや鶴屋さんは受験生にも関わらず付き合ってくれてんだ。 邪魔になったら迷惑掛かるだろ?」 「分かってるわよ。あんた、相変わらずノリ悪いわね~。 大変なのはみくるちゃんの様子見てれば分かるわよ。 だから今日だけでも派手にパーッとやって鬱憤を晴らすのよ。」 それはお前の鬱憤じゃないのか、ハルヒ。 「大体だな、お前は計画性が無さ過ぎるぞ。 期末テストもあるのに授業サボるなんて俺にとっちゃ死活問題だしな。 それに最近はこの前の中間テストもプラスして 親からのプレッシャーも日毎に増す今日この頃だ。 今日も帰って補習しなきゃ間に合わん。 それをお前はいきなりハロウィンパーティーだとか訳が…」 っておい、いきなり立ち止まるな! かのイギリスの文豪シェイクスピアは戯曲「リア王」においてこのような話を残しています。 リア王は隠居する為に国を分割し、彼の3人の娘に分け与えようとします。 彼は3人の娘の自分に対する想いを確かめる為に「言葉」を求めました。 長女と次女は甘く優しい言葉を投げかけ、国の割譲を約束されますが、 三女だけは「何もない」と答え、王の逆鱗に触れ、 婚約者と共に国を追い出されてしまいます。 しかし、女王となった長女と次女は永遠に愛すという誓いを立て 国を与えて隠居した父を邪魔者として追放します。 言葉というものはなんと脆いものなのでしょうか? 三女は父の苦難を耳にし、涙を流し、行方不明の王を探すために四方八方、手を尽くします。 「行動は時に言葉よりも雄弁である。」 彼女の言葉は想いとは裏腹で素直さに欠ける時もありますが、 いつも彼と共にいるというその行動そのものが彼女の想いを何よりも雄弁に語っています。 彼は今、目の前にいるおてんばなお姫様の心の奥底にある真の想いに 気付いているのでしょうか? 「そんなにやりたくないの?」 ん? 「キョンはそんなに皆と一緒にいるのが嫌?」 嫌とは言ってないが… 「分かった……じゃあ、止める。」 は? 「皆には私から連絡しとくからキョンも帰っていいわよ。」 出たよ…なんちゅう我が儘だ、おい。 「おい!ハルヒちょっと…」 「離して…」 「いや、お前なぁ…」 「帰りたければ帰ればいいでしょ!!」 ……頬に落ちた一滴の水は雨だったのだろうか、ハルヒの涙だったのだろうか――― 「私は付き合いだけで無理して皆とここにいる訳じゃありません!!」 朝比奈さんの怒号が響く。 「ごめんなさい…」 「なんでキョンくん、そんな事言ったんですか!? いい加減、涼宮さんの気持ちに気付いてあげて下さい!! 涼宮さんは私達の為というよりもキョンくんの為に きっとこのハロウィンパーティーをやろうって言ったんですよ!」 …俺の為? 「涼宮さん、キョンくんが最近、成績の事とかで悩んでるってずっと気にしてたんです。 だから涼宮さん、部室にいる時に一人でキョンくんの為に解説用のノートや 一緒に期末テストの勉強する為のスケジュール作ったりして、 来週からはスパルタで行くから今週くらいはキョンくんと 何か息抜き出来る事して気持ちを晴らして 羽を伸ばしておこうって言ってたんです!」 「あ~ぁ、今回はやっちゃったね~!キョンくん。」 鶴屋さんまで… 「ふぅ~…すみません、どうやら急なバイトが入ってしまったようです。」 古泉が椅子から立ち上がりながら俺を睨む。 「まぁ正確には涼宮さんらしく、団長の責務として団員の世話まで しっかりやらないといけないから大変だ、とおっしゃってましたが。 あなたの悩みは彼女の悩みでもあるんですよ。」 どういう事だ? 「まだ分からないんですか? 彼女からすれば何故、自分に相談してくれないのか? 悩みがあるなら共有してくれないのか?とね。 あなたに涼宮さんをお任せしたのは失敗でしたかね…。 では、失礼。」 すまん…古泉。 「今回はあなたの落ち度。謝罪すべき。」 ………。 妖精はいたずら好き。 かくれんぼなんかはお手の物。 彼は傘も差さずに雨の中を走り回って探してる。 でも、彼女は見つからない――― 「くそっ…あいつ一体どこにいやがるんだ…」 携帯に電話を掛けてもメールをしてもハルヒからの返事は一向に来ない。 あいつの家にも公園にも駅にも喫茶店にもハルヒが行きそうな所は 全て当たってみたが影も形も見当たらない。 街中を走り回ったせいか、足がもつれてこけてしまった。 街を行き交う人達の視線が痛い。 「はぁ…何やってんだ、俺は…。」 泥だらけになった服を払いながら涙が出てきた。 今日ほど自分が情けなくなった日はない…。 ハルヒの想いや悩みにいつも鈍感で一緒に騒いで楽しければ それで良いという距離感が崩れるのが怖かったのかもしれない。 ただそれは滑稽な道化に収まって楽をしていただけだ。 俺はあいつを傷つけて黙って見ていただけの 卑怯な臆病者だ。 もう一度学校に戻ろうと歩いていたその時、 目の前に一台の車が止まった。 「お久しぶりです」 「あ…森さん?」 「時間がありませんので説明は車の中で致します。 一刻の猶予もありません。お乗り下さい。」 え?という暇もなく、車に押し込まれた。 「これで体をお拭き下さい。」 今日はスーツ姿だが、時にメイドだったり、 森さんの本職は一体何なんだろうか? 手渡されたタオルで体を拭きながら諸々の事情を聞こうとしたのだが、 それは先に森さんの言葉に遮られた。 「事情を説明する前に一言。これは機関からの言伝ではなく、 私個人としての意見です。」 と、バックミラー越しに鋭い視線を投げかけられた。 「話は古泉から伺っております。 涼宮ハルヒを監視している機関として必然的にあなたの事も知る事になるのですが、 率直に申し上げますと、あなたは男として失格です。」 厳しっ! 「あなたは女性の言動の裏にある本当の想いに鈍感過ぎます。 それは意識してのものなのか、無意識なのかは分かりませんが 結果的に女性を傷つけるものとして私は断じて許せません。 彼女は、涼宮ハルヒは常にあなたの傍にいて、 あなたを心の底から慕っています。 あなたの想いもありますので必ずしも彼女の想いに応えろとは言いません。 しかし、のらりくらりと逃げるような真似をして 彼女を裏切り傷つけるような行為は同じ女として 怒りを禁じ得ません。」 突き刺さる…。というか森さん、キャラ変わってない? こんなにドSキャラだったっけ? 「では、ここから本題に入らせて頂きます。」 …とことん凹まされた…また涙出てきそ。 「涼宮ハルヒは今、この世界には存在していません。」 は? 「簡単に申し上げますと現在、涼宮ハルヒは 閉鎖空間の中に閉じ篭っているという言い方が出来ます。 私達、機関の活動は涼宮ハルヒの精神的な動揺から発生する 閉鎖空間の平定にあり、その閉鎖空間内において あなたもご覧になった事がある神人の討伐を行っていたのですが、 つい先刻よりその閉鎖空間内に機関の人間が 誰一人入る事が出来なくなっています。 閉鎖空間内にいた人間もことごとく追い出されています。 現在、発生している閉鎖空間はこれまでのものとは全く異質で 形も歪な空間です。」 「それは以前、俺とハルヒの2人だけで行ったのと同じものですか?」 「似てはいますが、それともまた違うものです。 ただ自らの存在以外を全て拒絶している空間のようです。」 「それだと今の俺は一番拒絶されそうな…」 と言いかけた所で再び森さんの鋭い視線が突き刺さる。 「良いですか?今、機関の人間を総動員して解決に当たっていますが、 このままだと世界中の人間だけが消えてしまう危険性があります。 申し訳ありませんが、あなたにはまた協力を要請する事になった次第です。 目的地につきましたので詳しくはそこで。 傘をどうぞ。」 その場所はさっき俺とハルヒが喧嘩をした駅前の広場だった。 そして、そこには真顔の古泉に長門と朝比奈さんも来ていた。 「お待ちしていましたよ。」 すまんな、古泉。 「情報統合思念体は混乱している。 現在の涼宮ハルヒは有機生命体の持つ全ての感情を 強い力で衝突させ、爆発を起こしかけている。 本来、情報統合思念体にとって感情とはエラーと認識されるもの。 それが処理出来ないほどの量と質で埋め尽くされている。 情報統合思念体にとって自らの存在を消去し得る 触れる事は危険且つ、不可能な領域として認識した。 だから、あなたに任せる。」 そんなでっかい事になってるのかよ…。 「キョンくん…さっきは怒鳴ったりしてごめんなさい… でも、キョンくんにしか涼宮さんを助ける事は出来ないと思うの。 キョンくんの素直な気持ちをちゃんと伝えて、お願い。」 くぅ~…とうとう覚悟を決めるしかないのか、こりゃ。 「では、ここからが閉鎖空間の入り口です。 僕らはこれより先には進めません。 ですが、あなたならきっと大丈夫です。 いえ、あなたにしか出来ません。」 わかりました…いってきます…。 彼女は魔法の国に迷い込んだお姫様。 お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。 普段はおてんば、はねっかえりでも 一人でいるのは怖くなる。 昔、絵本で読んだお話を決して忘れちゃいけないよ。 いつも助けてくれるのは白馬に乗った王子様――― 一瞬、雷に打たれたような衝撃が身体中を突き抜けると そこは幾度か見た灰色の空間だった。 ただ、土砂降りの雨が降っていた。 雷鳴も轟くその空間はこれまで知っていたものとは まるで違うものだった。 「なんだ、こりゃ?ハルヒはどこだ?」 叫んでみた。 「来たは良いもののどこに行って何をすれば良いかさっぱり分からんぞ。」 もう一度叫ぼうとした時だった。 「馬鹿!!!」 ハルヒ!? 「どこだ!?ハルヒ!!」 「馬鹿!うっさい!黙れ!このすっとこどっこい!! なんで追いかけて来ないのよ!?このアホ!間抜け面!唐変木!」 ありとあらゆる罵声が雷鳴と共に鳴り響いている。 助けに来てどやされるとはな…。 声の方角からすると喧嘩して離ればなれになった方角だな。 声を頼りに走ると近くの公園に辿り着いた。 しばらく走ってみてわかったのだが、ところどころ街が破壊されている。 しかし、どうやらあの神人というのはいないようだ。 いや…その代わり屋根付きベンチの上で魔人が仁王立ちしていた。 「遅刻!罰金!」 やれやれ… 「これでも結構、急いで走ったんだぞ。」 「全くこんなに暗くなって雨が降ってきたんじゃ 身動きも取れやしないわ。携帯も通じないし。」 こいつ、ひょっとしてここが閉鎖空間って事に気が付いてないのか? 「お前ずっとここにいたのか?」 「別に私がどこにいようと関係ないでしょ!?」 「ハルヒ…」 俺はハルヒの肩に手を置いた。 細い肩だ。 「何よ?何すんのよ?」 「そんなびしょびしょに濡れてたら風邪引くだろ? タオルで拭くんだよ。」 ハルヒの柔らかい髪の毛はくしゃくしゃに 顔は真っ赤になっている。 「ふん…まぁ、タオルを持ってくるなんて あんたにしちゃ上出来ね。」 ありがと、森さん。 その時ふと、ハルヒの肩が震えてるのを感じた。 あぁ~…そうか…そうだよな。 「ハルヒ……ごめんな。」 ぼつりと口をついて出た言葉がハルヒの顔を曇らせた。 そこからハルヒは俺の服にしがみついて 堰を切ったように大声で泣き出した。 そうだ…こいつだってこんな所にひとりぼっちにされたら 寂しいし、怖いだろう。 喧嘩して怒ったのと同じ分だけ悲しかっただろう。 俺の為に色んな事考えて色んな事してくれた分だけ 突き放された時はショックだったろう。 俺はハルヒをありったけの力を込めて抱き締めた。 俺は本当に大馬鹿者だ…。 もうこいつを離しちゃ駄目だ。 ごめんな、ハルヒ…。 そして…ありがとう、ハルヒ……。 その時、耳元で雷鳴のような大きな音が響いた。 「……プッ……クックッ……ハッ…ハッハッ!!」 そうだ、俺達は昼休みに学校を抜け出してから何も食べてなかった。 「ハッハッ!!ハルヒ、お前、腹の音!」 「あんたもでしょうが!キョン!」 お互い、赤面しながら笑い合った。 「腹減ってんのか?」 笑い過ぎて涙が出てきた。 「飴食うか?」 2人で飴を舐めながら俺は次の問題を考えていた。 閉鎖空間から抜け出さないといけない、 ハルヒにどう説明しようか等々。 とりあえず2人で歩いて閉鎖空間の入り口に戻ろうと 傘を差して屋根の下から出ると さっきまでの大雨と雷が嘘のように晴れ上がっていた。 「秋雨ってやつね。秋の天気は変わりやすいから。」 あれ?閉鎖空間から抜け出してる?なんでだ? 灰色じゃない。オレンジ色の夕陽が眩しい。 とりあえず足は自然と学校へと向かっていた。 「あぁ~…ハルヒ。その…なんだ… 今週はさ…思いっきりハロウィンパーティーやろうぜ。」 飴のようなキラキラした瞳でこっちを見つめている。 「あ、あとな…ちょっと頼み事があるんだが、 勉強を…教えてくれ。 今度の期末テストはお前の力を借りんとヤバそうだ。」 ハルヒは夕陽よりも眩しい笑顔で笑っている。 「しょうがないわね!その代わり! 今回はいつもより更にスパルタで行くわよ!」 「おう、ありがと!」 「な、何がありがとうよ! SOS団の団長として団員の世話は当然の仕事よ!」 嵐来りて大暴れ。 上へ下への大騒ぎ。 嵐は去りて一番星。 誓いを立てて手を繋ぎ、 夢か現か幻か。 「ではこれより!SOS団ハロウィンパーティーを始めます!!」 結局、部室では時間が遅いと言う事で急遽、鶴屋さん宅で お菓子と秋の味覚を取り揃えたあまりにも 豪華なパーティーを催す事になった。 長門はひたすら食ってるな。 なんか高そうなワイン付き。 だけど良いんですか、鶴屋さんのご両親。 娘さん、ワインで酔っ払って暴れてますよ。 朝比奈さんの胸揉みまくってるし。 コスプレはと言うと 長門は魔女、朝比奈さんは黒猫、古泉はドラキュラ、鶴屋さんは幽霊、俺はカボチャ…。 団長様はというと、超が付くほどのミニスカートを履いた妖精らしい。 おいハルヒ、パンツ見えてるぞ。 「今回もあなたに助けられましたね。」 「まぁ、今回は俺が原因でもあるからな。 色々すまんかったな、古泉。」 「いえ。初めに話を聞いた時は機関で拘束して 拷問にでも掛けようかと思いましたがね。」 お前が言うと冗談に聞こえないんだよ…。 「で、涼宮さんとは付き合う事になったんですか?」 せっかくの美味い飯が喉に詰まっちまうじゃねぇか! 「ば、馬鹿言うなよ!」 「おや?今回もキスしたんじゃないんですか?」 「しとらん!」 「それは……また森さんが怒りますよ。」 ギクッ! 「キョ~ン!」 「なんだ?」 「あんた、美味しそうなもん食べてんじゃないのよ。」 「やらんぞ。自分で取れ。」 「ケチ!うりゃ!」 「おい、取るなよ。」 「だって私、この付け合わせの甘い人参、好きなんだも~ん。」 やれやれ…。 「じゃあ、お世話になりました~!」 「良いって事さ~!今度はクリスマスだね!」 「おやすみなさ~い!」 宴もたけなわ、か。 来週からはしばらく勉強漬けの日々だな。 「では、僕もこのへんで。」 「…同じく。」 武士? 「わたひもおうひにかえりまひゅ~。」 酔い過ぎです、朝比奈さん。 「では、涼宮さんを家まで送り届けて下さいね。」 ニヤケ顔がいつもの倍になってんぞ。 「キョン!」 「はいはい。」 「はい、は一回。」 「はぁ~い。」 彼は一つ決めました。 はっきりさせておかなきゃいけない事がある。 試験が終わったクリスマス、 ちゃんと彼女に素直な想いを伝えよう、と。 冬も間近な秋の夜。 空に浮かぶ星達は遠い遠い所から 歩く2人を照らします。 彼女はくしゃみをしています。 彼はそっと服を着せ、彼女の手を取り歩きます。 照れて言葉も交わさずに。 まだまだ臆病な2人には ただただ優しく光を照らしましょう。 The End 涼宮ハルヒの教科書へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6011.html
涼宮ハルヒの遡及ⅩⅢ 何か、とてつもなく面白い夢を見た気がした月曜日の朝。 ただ、それが何かをどうしても思い出せないまま、いつものように強制ハイキングコースを踏破し、休日明けの気だるさを感じながら、教室へと入った途端、 「ほら見てキョン! 一気に下書きまでだけど最後まで書きあげたわ!」 赤道直下の真夏の笑顔でハルヒは俺に三十枚はあろうかというA4用紙を突き付けてきた。 「てーと、一昨日言ってたアレか?」 「うん。なんかその日の晩、バンバンアイディアが出ちゃって昨日一日、これに費やしてたのよ。でもまあ、こういうのも悪くないわ。自分の想像が瞬時にそこに現れるんだから」 なるほどな。 俺が一昨日、何気に呟いたクリエイターの話にハルヒが乗った訳だが、それにしてもここまでやるとはね。いやマジで恐れ入ったよ。 相変わらずとんでもないバイタリティだ。 …… …… …… 何だ? 妙な違和感を感じたような気がしたんだが…… まあいいだろう。おそらく気のせいだ。 「んじゃあまあ、どれどれ」 呟き、俺は原稿に目を通す。 ほほぉ。文化祭の時の映画の続編か。 さすがはハルヒ。多方面に高い才能があるのはここにも表れている。 下書き段階とはいえ、臨場感もあるし、キャラクターの表情も豊かだ。んでコマ割も完璧に近いものがある。絵ももちろんレベルが高い。 あーでもページにまたがる見開きはやらなくていいぞ。 「へぇ、今回はユキも味方になるんだな」 「ふっふうん♪ 少年漫画の王道ってやつよ! 昨日の敵は今日の友! それにやっぱSOS団の誰かを敵にしたくないしね!」 それはいい傾向だ。お前が長門、朝比奈さん、古泉のことが大事になってきている証拠だ。 「ん? 何だ? ひょっとして俺も出てくるのか……?」 少し渋面を作って感想を述べる俺に、ハルヒが、あの悪だくみニヤリ笑いを浮かべて、 「感謝しなさいよ。あんたにも役を作ってあげたんだから。でもまあ、あんたには何の特徴もないからね。だからバトルには参加させられなかったけど」 自信満々に説明してくれる。 ……別に無理に俺の役なんぞ作らなくてもいいのだが……モブキャラにだってできないだろうに…… って、 「おい、俺が何で異世界人とやらと知り合いなんだよ? いったいどういう伏線で?」 「決まってるじゃない。サイドストーリーよ」 「あのなあ、どこにサイドストーリーがあったんだよ。読者に想像力を働かせろってか?」 「別にいいじゃない。今回、初めてやってみたんだから、次回はもっと良くなるわよ。それよりも続きを見てよ」 「ああ解った……」 ふむふむ。 ユキが味方として蘇ってきたのは異世界人ではあるが同じ『魔法使い』の彼女の言葉に心を動かされて、か。 「ところでハルヒ、この異世界人の魔法使いって、ユキと比べると随分、派手な姿の魔法使いだな。バニーとかチアまではいかんがノースリーシャツにホットパンツで生足全開て。結構露出度も高いし」 「はぁ? それくらいで何で『派手』なのよ?」 「それに、この魔法使いの髪の色って桃色だろ? 充分派手だと思うが?」 「へっ?」 あん? 何だ? ハトが豆鉄砲喰らった顔して。 「いや……何であんたがその魔法使いの髪の色が桃色だなんて分かったのかなって……? まだ下絵段階だし、あたしも言ってないし、別に着色もしてないのに……」 え? あ、そう言えば何で俺は桃色だなんて考えたんだろ……いや待てよ? 「ハルヒ、お前今、『分かった』って言ったよな? てことはお前も桃色にするつもりだったってことか?」 「う、うん……でもまさかキョンに気づかれるとは思わなかったけど……」 二人しばし沈黙。 ぐ、偶然だよな…… 「ま、まあそれはお前の行動パターンだから俺が読めたってことだ! 深く考えなくてもいいだろう!」 「そ、そうね! なんだかんだ言ってもあたしとあんたは一緒にいることが多いもんね! お互いがお互いの考えなんておおよそ見当つくわよね!」 そうだそうだ。俺とハルヒの付き合いだ。そうこともあるさ。 で、実は後々思ったんだが、どうも俺たちのこの会話の時の教室中の視線がなんとも生暖かったようなのだ。 当然、今の俺は気付くことなんてできなかったがな。 さて、それよりも続きを…… 「……なあハルヒ、これ、本当に長門なのか?」 「どういう意味?」 俺が指差したのは異世界の魔法使いと供に戦うユキのシーン。 「いや……なんとなく長門なんだけど長門じゃないような気がしてな……」 「ああ、それ有希よ間違いなく。ただ、改心したユキはヘアカラーが変化したのよ。グレーアッシュからシアンに。ほら、昔あったじゃない、星座をモチーフにしたプロテクターを着て戦うバトルマンガ。その中の双子座の戦士の性格が二つあって、アニメだと善の時の髪の色はシアン、悪の時の髪の色はグレーだった訳だけどそれに倣ったの」 なるほどな。つーか、よく知ってるなお前。 「ふっふぅん♪ あたしは少女漫画よりも少年漫画の方が好きよ。だって、そっちの方が不思議な展開と力で満ち溢れてるもの」 確かに。というか、お前の朝比奈さんへのセクハラは多分に一部の少年漫画の影響を受けているような気がしてならんかったからな。 …… …… …… 何だ、この感覚は? このマンガの二人、ユキと異世界の魔法使いの立ち振る舞い…… まるで、どこかで見た気がする。 しかもどういうことだ? ハルヒは長門と、と言う風に言っていた。このデッサンも確かに長門のはずなのに…… しかし俺には長門と別の誰かが被っているようにすら見える。 おかしい。そんなことはあり得ない。 だいたい魔法が登場する時点で現実からは外れているんだ。 もし見たことがあるとしたら夢の中以外に答えはないじゃないか。 「どうしたのよ?」 「あ、いや……なんでもない……」 「ん? 変なキョン」 ハルヒは何も気づいていないのだろうか? まあ問うのは止めておくけどな。 こんなことをこいつに言えば、力の限り馬鹿にされるか、俺の頭を切開して夢の中の記憶を引き摺り出そうとするか、するかもしれん。 そんなこんなで今日も放課後だ。 放課後と言えば、もう完璧に習慣化しているので旧館の一角『文芸部室』に勝手に足が向く。 んで、今日はハルヒが掃除当番だから先に着き、長門、朝比奈さん、古泉に軽く挨拶して、長門が読書する姿を横目に捉えながら、朝比奈さんが注いでくれたお茶で喉を潤しつつ、俺の白星しか増えない将棋を古泉と指している。 しばらくするとハルヒが入ってきた。 「ごっめ~~~ん! みんな、揃ってる?」 見ての通りだ。 などと軽く言葉を交わしつつ、今日は月曜日であるにも関わらず、明日がどういう訳か祭日と言うことで、ハルヒは団長机の椅子に仁王立ちになった。 「みんな! 明日は特別不思議探索の日に設定するからね! 集合はいつも通り、光陽園駅北口午前九時! 一番最後に来た奴が奢りだから!」 満面の300W増しの笑顔で高らかに宣言するハルヒ。 まあいつものことだから、今更何の感慨も持たないが。 が、どういう訳か、俺はハルヒの次のセリフに言い知れぬ違和感を抱いたんだ。 「探索目的は、宇宙人、未来人、超能力者、そして異世界人よ! 原点回帰! 明日こそ必ず見つけるわよ!」 いったいどういうことなんだ? これはいつもハルヒが言っていることじゃないか。 どうして俺は違和感を抱くんだ? などと言う俺の内に広がる違和感は、しかしいずれ時が経てば水面に広がる波紋のように消えていくんだろうな、という思考も頭を過った。 と、このときはかなり気楽に考えいたのだが。 どういう訳だろう? どうやら違和感を抱いていたのは俺だけではなかったらしい。そのことは翌日の不思議探索で知らされることになる。 「ねえキョン」 「何だ?」 何の因果か、いつも通り俺が一番遅かったんで、いつも通りみんなにお茶を奢って、いつも通り班分けしたのが今日に限ってはいつもと違い、同じ班になったのはハルヒだったりする。 で、最初はなかなかテンションが高かったハルヒなんだが、公園から街中を散策する道すがら、どんどん神妙になっていった。 これは何を意味するのだろう? 「うん……昨日、見てもらった漫画なんだけどね」 「あれか」 「アレって妙なのよ。昨日、キョンが指摘した通りで、あたしも家でもう一回読み返してみたらキョンと同じ感想を抱いたの」 「と言うと、異世界人の魔法使いの髪の色が桃色だったり、ユキの髪の色がシアンだったり雰囲気が違うって言ってたことか?」 「そうよ。あたしもそう感じたの。あの感覚って何なのかな? 実のところ、既視感ってのとも違う気がしてるのよね」 確かにな。それは俺も思ったことだ。 「しかし、だとするとどういう意味になるんだ? それじゃあまるで、俺たちはそういうことがあったのに記憶を操作されて記憶を消された、ってことになるのか?」 などと言った俺が馬鹿だった、なんて普段の俺ならそう思うかもしれん。 もっとも、今回は違った。 「あ……!」 ハルヒが愕然とした声を漏らす。 「まさか……!」 俺もまた、自分が導き出した答えに言い知れぬ驚きの声を漏らしたんだ。 そして二人して自分の懐をまさぐり、同時にお互いに手の中の物を見せ合う。 それは、まったく記憶にない、しかし持っていた、と確信を持って言えるものだった。 俺たちは淡い光沢を放つ神秘的な黒い石を互いに見せ合って、 「キョン、もしかしてあたしたち、この石の持ち主、宇宙人だか未来人だか超能力者だか異世界人だか知らないけど、そういう存在に遭ったのかな?」 「かもしれないな。俺もそんな気がした」 「てことはさ!」 ハルヒの笑顔が300W増しプラスさらなる輝きを放つ。 「また遭えるかもしれないわね! んで今度こそ、記憶を消されないように友好関係を結ばなきゃ!」 ああそうだ。 何故だろう? 俺はこのとき、ハルヒの提案をいつものように聞き流すでもなく、本気で受け入れる気概を抱いたんだ。 理由か? そうだな。おそらくは忘れていけない何かを忘れさせられてしまったからだろう。 確信はない。しかし漠然とではあるがそう感じる自分が居る。 そして、おそらく――いや、間違いなくハルヒも同じことを考えただろうぜ。 どこの誰かは判らん。俺たちの記憶を消した理由も知らん。 けどな、ハルヒ相手に記憶操作なんて大胆な真似をしたところで、完全に消すことなんざできる訳がないんだ。 近いか遠いかは知らんが、将来、必ずあんたのことを思い出すだろうよ。 そうなったら、ハルヒがどういう行動に出るかは容易に予想できるってもんだ。 もちろん、その時は俺もハルヒに付き合うぜ。 おっと、ハルヒと俺だけじゃないよな。 ハルヒが会心の勝ち気な笑顔を浮かべて空を指差している。 「待ってなさいよ! 宇宙人、未来人、異世界人、超能力者の内のどれか一つの肩書を持った人! あたしとSOS団が必ず見つけ出してあげるんだから!」 だとさ。正体不明の誰かさん。 涼宮ハルヒの遡及(完)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5844.html
公園で古泉と長門に別れを告げた俺だが 何となく立ち去りがたいものを感じたのでもう一度戻ってみた てくてく歩く長門になら追いつけるかもしれないと思ったからだ 長門にさようならなんて言われてしまっては帰るにも帰れない 何かもう一言かけたいというのか、もう一度顔が見たいというのか とにかく心に切ないものを感じていたので長門のマンションに急いだ マンションまでの短い距離を急いだが、長門に追いつくことはできなかった もう部屋に入ってしまったのか? まさか家にまで押し掛けるわけにもいかない しょうがないから帰ろうかと思った時に、俺の胸に危険信号が鳴った 急いでさっきの公園に戻り、近くに自転車を止めてから足音を忍ばせて接近した いた! 長門と古泉はまださっきの場所に座っていた 古泉がしきりに長門に何かを話しかけ、長門は短く応えている 距離が遠くてよく分からなかったけど、常夜灯の小さな明かりの下で 長門の白い歯が見えた、ような気がした おいこら古泉 てめえドサクサに紛れて何やってるんだよ 思わず殴りこもうかと思ったけどそんな事ができるはずがない もう少し近づこうと、俺はそろそろと移動した その時突然、後ろから肩を叩かれた ヤバい!警察か? 公園の植木の影に隠れて横移動している俺の姿は 紛れもなくのぞきかストーカーのものだった しかも目標地点には爽やかな高校生カップルが 俺は1リットルぐらいの冷や汗をかきながらおそるおそる振り向いた すでに頭の中には明日の新聞の見出しが踊っている 「コラっ!おイタしちゃダメでしょう」 あれ?この声には聞き覚えがあるぞ? 振り向いた俺の目に飛び込んできたのは ミス銀河系と謳われてから幾久しい 栗色の長い髪を垂らした絶世の美人だった 朝比奈さん… もちろん(大)の方の朝比奈さんだ 「いいからこっちに来て」 突然現れた朝比奈さんは、俺を公園の外に連れ出した 「ちょっと歩きましょうね、キョンくん」 だんだん明るくなる早朝の街を、2人で肩を並べて歩いた 「それはそうと、大活躍でしたね」 いえ、俺が何の役に立ったのか、最後まで分からずじまいでしたよ 「あなたが涼宮さんの側にいること、最後まで離れなかったこと それがあなたの大活躍だったんです」 はあ…でもけっこう離れてた時間も多かったですけど 「大丈夫ですよ。必要な時にいてくれたから」 ありがとうございます でも朝比奈さんも大活躍だったとか 「あれが大活躍だったのかしらね でも最後の時間跳躍には本当に驚きました いくら涼宮さんの力とはいえ、まさか7億年前に行っちゃうだなんて 人類最長の時間移動です あの時の記録は私のいる現代でもまだ破られていません あなたは7億年前の世界なんて想像がつく?」 7億年前と言うと…恐竜時代ぐらいでしょうか? 「ふふっ、それはもっと最近の話 私が行った世界はね、まだ生命は海中にしかいなくて、そして氷河期だったわ とても寒かったし、一緒に行った藤原くんは気絶しちゃうし もしかしたら帰れないんじゃないかって思ったのよ」 そこでちょっと質問があるんですけど 以前にあなたは4年前の次元断層よりも過去には遡行できないって言ってませんでしたか? それに、あの異世界から出発したのになぜ地球の7億年前に行けたのですか? 「あっ!そうね、そうよね? いやだわたしったら、どうしてそんな事に気がつかなかったのかしら? やっぱりそれも涼宮さんの力なんだと思うわ 涼宮さんは別の世界の7億年前なんか知らないから たぶん手近な所で地球の7億年前に連れてってくれたと思うのよ」 やっぱり朝比奈さんはこの年になっても朝比奈さんか あの状況をしっかり楽しんできたのか それともただ能天気なだけなのか しかしハルヒの超絶パワーにも呆れたもんだ あいつが本気で世界を変えようとしたらいったいどんな風になるのだろうか 「そのすぐ後に、『早く帰って来なさい』って声が聞こえて 気がついたら元の場所に戻ってたのよ いったいどんな仕組みなんだろうなぁー 涼宮さんの頭の中って」 そう言って口元を押さえて笑う朝比奈さんはとても美しい 長い髪からはシャンプーの香りが鼻を優しくくすぐってくる 未来のシャンプー製造職人はなかなかのセンスを持っている人らしい ちょっとだけ顔を近づけて、その甘い香りを楽しもうとした 「キョンくん、あなたのおかげで未来は正常な姿に戻りました ちょっと時間差になると思うけど、改めてお礼の手紙が届くはずです あなたは自分の意志で涼宮さんを選びました 私たちのような、周りからの干渉でこうなってしまったのかもしれないけど 私はあなたの気持を尊重します 仕方がないからそうしちゃいましたなんて、思ってはいないよね?」 もちろんですよ朝比奈さん 俺は何の後悔もしていません 「だったらもう他の人の人生に干渉しちゃダメ 世の中の全ての人があなただけを見てるわけじゃないのよ それは長門さんだって同じ あなたは長門さんの正体を知っていて、彼女の性格も分かっているから 自分のせいなんじゃないかって、自分を責めているかもしれない だけどそれはね、長門さんにとっては迷惑以上の何物でもないの あなたは優しいから、みんなにそう思うのはとてもいい事だけど そうやって長門さんに干渉すればするほど、彼女の心に傷を残すのよ それは分かる?」 うっ そうなんでしょうか 「あなたが基本的に間違っているのは 長門さんが人間じゃないって勝手に思い込んでいる事です 長門さんは宇宙人製のアンドロイドだから、それは自分だけしか知らない秘密だから 長門さんには普通の恋愛はできないかもしれないから だから自分が守ってあげなきゃとか それはあなたが勝手にそう思い込んでいるだけの事です」 朝比奈さんは本気で怒っているようだった ゆっくり歩きながら、前方は見ずに俺をじっと見ていた 「もしもあなたが涼宮さんと付き合いながら、長門さんともうまくやろうなんて まさかそんな事は考えてないと思うけど、おそらく今のあなたの頭の中には 涼宮さんと長門さんの顔が交互に浮かんでいるはず だからあなたは自分の心の隙間を埋めるために 長門さんとのつながりを残そうとしている じゃあ長門さんの気持ちはどうなるの?」 朝比奈さんの声が大きくなった 新聞配達らしき自転車に乗った青年がこっちを見ている それに気付いた朝比奈さんはすぐに声を潜めた 「長門さんもたぶんあなたの事が大好きなはずです でも彼女は自分の事は良く分かっている 涼宮さんの監視目的のためだけに作られた人造人間が 目的を忘れて恋愛にうつつを抜かすだなんて そんな事は絶対にできない だから長門さんは必死で我慢していたはず あなたはその事をよく知ってるでしょう? 長門さんが暴走して世界を作り変えてしまったのはなぜ? 涼宮さんの監視に飽きたから? それならただ単に涼宮さんの能力を消去するだけでよかったはずでしょう? もしくは涼宮さん自体を消してしまえばいい なのに彼女はなぜあんな複雑な世界を構築してしまったの? 学校まで代えさせて古泉くんまで放り出して 私は赤の他人になってしまって他に誰も知り合いがいなくて そんな複雑な世界にしてしまったせいで結局あなたに気付かれてしまい 彼女の目的は達成できなかった もちろん彼女自身が本気でそれを求めていなかったからなのかもしれないし あなたに頼るほどに迷っていたのかもしれない だけど考えてみて ただ涼宮さんの監視に疲れただけだからと本気で思ってるの?」 長門…… 長門… まさかお前…… そこまでして 俺と? 「情報統合思念体が長門さんを処分しようとしたのはなぜ? その時にあなたは彼女に何て言ったの? 作り変えた世界で、長門さんはあなたに何て言ったの? ここまで言われないと分からないの?キョンくん」 俺はガックリとひざをついた まさか…長門が俺の事を想ってくれていたなんて? ああ その時に俺が気付いていれば いや、俺は気付いていた なのになぜ行動できなかったんだろう? ハルヒの事を考えたから? SOS団の事を考えたから? それとも? 「あなたは長門さんに対して、1つだけとても失礼な事を考えている 私はそんなあなたを絶対に許せない あなたは気付いていないかもしれないけど あなたは長門さんを 人間じゃないと頭から決めつけている そういうのをこの世界では何て言うの?」 朝比奈さん ごめんなさい 俺は… 俺は大変な事をしていました 長門を苦しめていたのは全て俺の責任です 俺は長門を 差別していました あいつは人間じゃないと差別していました 少なくともハルヒの方がまだ人間だからと もしかしたらそう思っていたのかもしれません それは間違いでした たった今気がつきました 本当にごめんなさい 「その言葉は長門さんに言ってあげて あのねキョンくん 彼女はあなたが思ってるほど、弱い人間じゃないのよ 自分に与えられた条件の中で、それでも必死で生きていこうとしている 自分がどんな存在であっても、受け入れてくれる人がいるかもしれない それがキョンくんだったらどんなによかったでしょうね でもキョンくんは自分に言い訳ばかりして 自分で勝手に長門さんのためだとか思い込んで1人でいい気分に浸ってるし 女の子ってそんな簡単なものじゃないのよ バカにしないでほしいわ 私だってもちろんそうよ ドジでおっちょこちょいだけど 自分自身と未来を守るために必死で戦ってるつもりです 涼宮さんだってそうでしょう? 十年前の夜中に、たった数十分出会っただけのジョン・スミスを探して 彼の声と雰囲気だけを手掛かりにして十年間ずっと探し回っていた あなたにそんな事ができる? これは禁則だから言えないけど あなたがこんなに優柔不断じゃなかったら 私たちの任務はどんなに楽になっていた事か」 すいません朝比奈さん 俺は泣き出していた 1人でカッコつけていた自分に腹も立っていた 俺は長門が好きだった 寡黙でおとなしくて本が大好きで小さくて そしていざという時にはものすごいパワーで俺を守ってくれる そんな長門に俺は優しい言葉などかけたことがあっただろうか いや言葉なんかじゃない お前は人間なんだよって 一言声をかけるだけでよかったんじゃないのか? そしたら長門もあんな変な暴走を起こして ややこしい世界を作らずに済んだのかもしれない 長門が世界を作り変えてしまったのは 人間として俺に接してほしかったからなのか? たったそれだけの事を俺に気付いてほしいためだったのか? 「ごめんね、ひどい言い方をして でも私もあなたと同じだったかもしれない この時代の長門さんはちょっと近寄りがたくて、ずっと避けていたから あっこれは禁則ね」 ってことは朝比奈さん 長門は朝比奈さんの時代にもまだいるんですか? 「それも禁則事項です では元の場所に戻りましょうかキョンくん」 俺は朝比奈さんに手を引かれて公園に戻った まだ泣いている俺の背中を、朝比奈さんは何度もさすってくれた 「長門さんみたいな透明フィールドが使えれば便利なのにね あっこれは言わない方がよかったかな?」 公園ではまだ長門と古泉が話し込んでいた 古泉は身振り手振りを交えて長門に話しかけ、長門はそれに応えている 遠すぎて何を言っているのかは分からなかったけど こう見えても長門評論家歴1年を超える俺だ 微妙な体の動きで感情が分かる 長門は明らかに笑っていた 古泉のつまらないジョークに反応して肩を震わせていた 「あれを見てどう思いますか?」 はい もう俺の出番はないです 「古泉くんは長門さんをどんな風に思ってるのかな?」 あいつの事もちゃんと分かってます 古泉は、長門がアンドロイドだからって差別するような人間じゃないです いや、あいつはロボットにだって本気で惚れられる正直な男です 「ね、分かったでしょう?時間は確実に次の流れに向かってるの だからこれ以上あなたが介入すべきではない 時間の流れってそんなものなのよキョンくん わたしたちが頑張ってるような大きな時間変動で狂ってしまった歴史 修正しないと未来が大変な事になってしまうようなものもあれば 多少のブレは寛容される部分もあるの 何もかもを完全に歴史の教科書通りにしようとして私たちが介入したら 歴史は複雑に切り刻まれて大変な事にあります それこそ時間軸全体がバラバラになってしまう 時の流れってそんなものよ 細かく管理されているように見えても、中には大らかな部分もあるの そこをちゃんと見極めるのが、我々の腕の見せ所ってわけです それと、これも禁則事項なんだけど 長門さんと古泉くんがこのままお付き合いする可能性は今のところまだ低いです もしかしたら、またあなたの出番が回ってくるかもしれない」 そんな事言ってしまっていいんですか? 「禁則だからあまり言えないけど まだまだ長門さんを巡ってはチャンスがあります だってそうしておかないと 長門さんをお嫁にもらいたがってる人たちの未来がなくなっちゃうでしょ?」 えっ? 朝比奈さん? そこんとこをもう少し詳しく 「長門さんは誰かだけのお嫁ではないの みんなのお嫁さんになれるわ 彼女は時間にも空間にも、何に対しても制限を受けない存在よ その気になったら自分をいくつもコピーする事だってできるんだから それを配って歩いたら、世界中の長門は俺の嫁問題は解決ね むしろ彼女なら喜んでそうするかも」 朝比奈さんはそう言って無邪気に笑った この人は…やっぱりすごい人だ 藤原が言った言葉をまた思い出した あの、藤原に聞きましたけど、あなたは歴史に名を残す人だって 「それはまだ禁則にすらなっていない言葉なの 私も彼の言葉はまだ覚えてるけど、残念ながらそれはもっと未来のようです ちょっと楽しみにしてるんだけどね」 そんな話をしているうちに長門が立ち上がった 古泉が肩でも抱いて一緒に帰るのかと思っていたが、そこでそのまま別れた 立ち去る古泉の後ろ姿に向かって、長門はずっと手を振っていた もちろん長門は俺たちがここでのぞいている事ぐらい百も承知のはず しかし何も言わずに、チラリと俺たちが隠れている繁みを一瞥してから ゆらゆらと歩いて帰っていった 「さあキョンくん、そろそろ時間です 実は今日はイレギュラーで来ちゃったから予定の行動じゃないの」 俺を叱るためだけに来たんですか? 「そうよ。だから次の任務に行かないと。服も着替えないといけないし いろいろ言ってごめんなさいね、悪気はないから」 いえいえ朝比奈さん 叱ってくれてありがとうございます これで明日から、長門にちゃんと話せると思いますから 「私に言われたことは内緒よ」 もちろんです 「じゃあ行くね、キョンくん 改めて手紙が届くと思うけど、ちょっと私は混乱してるので注意して下さい」 そう言うと朝比奈さんは俺の目の前であっさりと消え去った すっかり朝になってしまった街の中で、俺はすっきりした気持ちでいた 明日長門にきちんと謝ろう そして元気よく『頑張れ』って言ってやろう SOS団は団員全員がハッピーエンドにならなくては それがハルヒの格言だからな 頑張れよ長門! 長門有希! 足音を忍ばせて自分の部屋に戻った時はすでに朝だった 今から寝たら起きられないのが目に見えている 仕方がないので椅子に座ってマンガを読んでいると すぐに妹が起こしに来た 「あっ!キョンくんがもう起きてるー!お母さーん!大変大変! キョンくんの頭がおかしくなったぁーっ!」 おかしいのはお前の発育状態だぞ妹よ そろそろ第2次性徴が始まってもおかしくない年頃だろ 顔を洗って歯を磨いて朝飯を食い、途中で妹と別れて通学した 北高への長い坂道を登り、ようやく学校についた ハルヒがもう来ていて、頬杖をついて窓の外を眺めていた 鶴屋邸で過ごした一夜の事もあるし、ちょっと声をかけづらい雰囲気ではあったが、無視するのも心苦しいところだ よっ、ハルヒ 「…おはよう」 おいハルヒ 気持ち悪いぞ お前がそんな常識的な人間の挨拶をするなんてな 「……」 また道に落ちてるバッタの死骸でも食ったのか? 「うるさい!」 いくら一線を越えてしまった関係とはいえ、朝っぱらからダークモード全開のハルヒにガソリンをぶっかけるほど俺は好戦的な種族ではない 黙って自分の席につき、やがて間違いなく訪れるであろう、強烈な睡魔と闘う術を模索していた 土日にあれだけ眠ったにも関わらず、昨日は徹夜だった俺に天使の攻撃が襲いかかるのは簡単に予想できた 果たして予感は的中し、1限の途中から脳内に羽毛布団が侵入してきた 朝比奈さんの母性を思わせるような柔らかな感触が、俺の睡眠中枢を優しく刺激する その時背中に強烈な痛みを感じた おいハルヒ、シャーペンでつつくのはいいけど、今のは貫通してたぞ明らかに 「……」 午前の授業はずっとそんな調子だった 睡魔に負けて船を漕ぎそうになると背中をハルヒに刺され 何度か頭をボカリと殴られた 教室中に失笑が湧き起こり、教師はサジを投げた悲しい視線で俺を見ていた もちろん何一つとして頭に入るはずがない 何とか耐えて昼休みになった いつものようにアホの谷口と能天気な国木田が弁当を持って来る 「よおキョン、ずいぶん眠そうだったな。徹夜で2ちゃんねるでもやってたのか?」 このアホを黙らせる適確な言葉を探していると、突然2人が凍りついた 国木田はポカンと口を開き、谷口は干しブドウと間違えてゴキブリを口に入れてしまったような顔をしている 「たたた谷口、きょきょきょ、今日は2人でご飯食べようか」 「あ、ああそうだな、ひ、久しぶりに屋上にでも行ってみるかな?」 何だこの2人は? ハルヒのアホがついにお前らにも伝染してしまったのか? 「これからもずっと仲良くしていこうね谷口」 「や、やあ、それは、とてもいいことだなぁー」 逃げるように教室を出ていくアホ2人 そして教室中の視線が俺の後ろの机に向けられている 俺は特定の金曜日の夜中にいきなりアイスホッケーの面をつけた怪人に襲われたような気分になり、恐々後ろを振り返った そこにはハルヒが朝と同じ仏頂面で座っていた いつもは休み時間になると超特急で人様に迷惑をかける材料を仕入れに行くこの女が、座ったまま人差し指でトントンと机を叩いていた そして机の上に乗った物体を見た瞬間、俺は世界の終焉を予感した ピンク色のハンカチで包まれたプラスチックの容器 世間一般では弁当箱と呼称される物体だ 男子のほとんどが質実剛健アルマイトの弁当箱を持っているが、女子の多くはこういうファンシーな入れ物を使う そして俺を恐怖のどん底に突き落とす原因は、全く同じものが2つあった事だ つまり俺にも食えという事か 「朝ちょっと早く目が覚めちゃったのよ。あんまりヒマだったから」 春うららかな穏やかな今日この頃なのに、教室の気温は氷点下を記録している 今ごろ地球のどこかに記録的な低温で農作物に致命的なダメージを被っている地域があるかもしれない 世界中の農業従事者の皆さん本当にごめんなさい その原因を作ってしまったのはこの俺です 「いらないのなら持って帰ってシャミセンのエサにでもすればいいわ」 いやいやハルヒさん いただきます つつしんで拝食させていただきます ハルヒの料理の腕前はすでに承知のとおりだ まさか毒を盛るって事もないだろう 2段重ねの弁当箱の上の段には、タコのウインナーと卵焼き、海老フライにマカロニサラダ、そして下の段には白いご飯が詰められており、ちょっと歪んでいるがふりかけで大きく『K』と書いてあった 嫌な予感がしてハルヒの弁当を見ると 全く同じ内容でご飯には『H』と書いてある ハルヒは耳たぶまで真っ赤に染めながら 「味は保証しないからね」 と叫んでガツガツ食べ始めた 釣られて俺も箸を取り、おずおずと食べる 後ろを向いた俺の背中に、教室中の好奇な視線の槍が突き刺さる ついつい先日の長門と周防の戦闘シーンを思い出す そして朝倉の最後の笑顔もだ 背中を槍で貫かれるってのはこんな気分になるものなのか 痛かったろうな…長門、朝倉… 真っ赤な顔をしたハルヒは3分もかけずに完食し、釣られた俺も急いで平らげた 予想通りなかなかの味だったのだが、残念ながらゆっくり味わう余裕すらない 俺は母親が作ってくれた弁当をどうしようかと悩みながら弁当箱に蓋をした 「気まぐれだからいつまで続くか分からないけど しばらくお弁当はいらないからって、お母さんにそう言っといてよね」 はいはいハルヒさん どうもありがとうよ お言葉に甘えさせてもらうけど、あんまり無理するんじゃないぞ 耳まで真っ赤に染めたハルヒはなかなかかわいい風情だった 大急ぎで弁当箱をしまってカバンにしまう そしてダンと音を立てて立ち上がり、疾風のように飛び出して行った おいハルヒ、俺を1人にするな この凍りついてる教室に、せめてキアリクでもかけてから行ってくれ 結局その日が終わるまで、俺に口を利いてくれる生徒は1人もいなかった と言うよりほとんど寝てたので、何の授業だったのかも覚えていない 俺を起こす役のハルヒも午後はずっと眠っていたようだ 気がつくと6限のチャイムが鳴っていた すでに教師すらいない しびれクラゲにも劣らない、ハルヒの強烈なマヒ攻撃からやっと解放された生徒たちは それ以上の被害を被る前にそそくさと逃げ出し始めている 自分のカバンをむんずと掴んだハルヒは俺に向かって 「今日は部活休むから!」 と言って立ち上がった 部活と言うものはな、学校及び生徒会から正式に認可された最低5人以上の団体で、それなりの予算を割り当てられて学校生活をより良くするために存在する組織なんですよと言いたいのだが 「みんなによろしく言っといて。それと後で電話ちょうだいね、以上」 やっぱり何も聞いてないねあんたは おいハルヒ 「何よ!」 弁当ありがとう、うまかったぞ 「ぅぐっ…」 世界選手権クラスの競歩選手も真っ青な速度でハルヒは出て行ってしまった アホの谷口に絡まれる前に俺も教室を飛び出した 俺にもちょいと急ぎの用事がある 本当は昼休みのうちに済ませたかったのだが、ハルヒのマヒ攻撃の影響を俺も受けてしまい、教室を出ることができなかったので、ハルヒが部活を休んでくれたのは好都合でもある 渡り廊下を歩き、ギシギシきしむ部室棟の階段を上がり、俺は文芸部のドアをノックした 「……」 いつもと同じ無言の応答がようやく俺に世界平和を感じさせてくれる しかし今日は少し緊張もしていた 「……」 長門が送ってくれる心地よい無視 こいつを美術部のデッサンのモデルに選べばどれだけ楽な事だろう なんせ『動くな』と言うよりも『動け』と言われる事を苦手にするような女だから、絵を描く者は心ゆくまでこの読書姿を楽しむことができるはず よお長門、体の具合はもういいのか? 「…その質問には今から14時間36分22秒前に答えたはず」 そうか またお前に会えてよかったよ 「……」 なあ長門 「…なに」 ちょっと話したい事があるんだけど、本読みながらでいいから聞いてくれないか もし聞きたくなかったら耳のスイッチ切っといてくれてもいいから …いや、すまん。最後のセリフは忘れてくれ 「……どうぞ」 そうか、俺がこういう言い方ばかりするから長門を苦しめていたのか やっぱり朝比奈さん(大)の言うとおりだったな。改めないと あのな長門、もう知ってると思うけど 俺、ハルヒと付き合う事になった 「……」 それで、その・・・いろいろ考えたんだけど 俺は本当にハルヒの事が好きなのかなって 目をつぶって考えてみたんだ 誰の顔が一番多く浮かんでくるかなって 「……」 もちろんハルヒの顔がたくさん浮かんできたけど、それと同じくらい長門の顔が出てきたんだ 「……」 実は朝比奈さんの顔もかなりの頻度で出現しているのだが、そんな無駄口を叩いてしまうとまた数百年後から怒鳴り込みに来られるのが目に見えているのでそれは言わない 俺はハルヒの事が好きなのか、それとも長門が好きなのかなって でもこういう結果になったんだし、何も後悔はしていないつもりだ ハルヒもたぶん、俺の事を好いてくれてると思う ごめんな、俺、何言ってるのかさっぱり分からんだろう? 「構わない…続けて…」 俺はもしかしたら長門の事が好きだったのかもしれない もし、違う状況で出会ってたら、俺は本気で長門を好きになっていたと思う こんな事を言うべきじゃないと思うんだけど、本当にごめん 「…別にいい…あなたはそうすべきだった 涼宮ハルヒもずっとそれを望んできた 情報統合御思念体も、古泉一樹の組織もその点では意見は一致している そしてあなたは私と交際すると後で必ず後悔する事になる なぜなら私は…」 いいか長門、最後まで聞いてくれ 俺が言いたいのはそんな事じゃなくて、お前にももっと自分の世界を拡げてほしいって言うか、もっともっと人生を楽しんでほしいんだよ 俺はお前の事はかなりよく理解しているつもりだ なんせ生きるか死ぬかの経験を共にした仲だからな お前もいろいろ悩んで、つらい思いをしたと思う だけど長門、お前はもっと人生を楽しめる人間だ いろいろ制限がある存在だってのは分かるけど、そんなの気にしちゃいけない 俺はハルヒと真面目に付き合う、これは決して軽い気持ちじゃないつもりだ だからこそ長門、お前もたっぷり人生を楽しんでほしいんだ そのためなら俺は絶対お前を応援するぞ お前が高校生活をもっと楽しめるために、俺は何でもするつもりだ ハルヒだって同じ気持ちだと思う あいつなら絶対こう言うよ 「SOS団員は必ず全員がハッピーエンドを迎える事!」ってな 長門、お前にはそれができるはずだ なぜならお前も俺たちと同じ、ただ普通の人間だからだ 「………」 お前の親玉の事とかお前の任務とか、そんなのは俺たちにはどうでもいい事だ 今ここにいるお前はごく普通の高校生だ 高校生なら普通に恋愛なんかもしてもいいはずだ お前の親玉もそう思ってるはずだよ絶対に 親なら自分の子供が楽しく暮らしているのを見て、それを喜ばないはずがないだろう? 「…私たちの間には、あなたが考えているような血縁関係は存在しない」 それは違うぞ長門、と言いかけて俺は何かに気がついた 長門の表情が変わっていた 何かがおかしい 長門がその小さな肩を震わせている 開いた本に目を落としてはいるが、その視線は文字を追ってはいなかった 「…ありがとう…あなたの気持は十分伝わった」 長門、これ以上は余計な事かもしれないけど、お前って結構人気あるんだぞ 隠れファンクラブとかもあるらしいしな 谷口いわく、お前のランクはAだ(マイナーは敢えて省略する) これはちょっと禁則に触れるんだけど、お前を嫁にしたがっている男は相当いるらしいぞ 「それは…本当?」 ああ本当だとも お前の情報処理能力でも気付かない事もあるんだな ああこれも言ってはいけない事だ なあ長門 「なに?」 俺の今までの行動とか発言で、お前が人間じゃないからってバカにするような事をしていたら、それに対しては心から謝りたい もしも俺がお前を苦しめていた事があったら、本当にすまないと思う だけどこれからは、お前はごく普通の女子なんだって思うようにするから 今までの事は許してほしい 「……」 ごめんな長門 「いい…そのような状況に該当する言動をあなたはしていない あなたは私をいつも大事に思っていてくれた、それは今も同じ でもありがとう、私は……嬉しい」 そうか、長門 これからも仲良くしような 長門の顔が秒速1cmほどの速さでゆるゆると持ち上がり、かくんと落ちた 「もう少し聞きたい事がある」 何だ長門?何でも聞いてくれ 「私をお嫁にもらいたがっている人の事」 長門?やっぱり興味があるのか? 「……少しだけ」 詳しい事は未来の朝比奈さんに聞かないと分からないんだ 禁則事項なんだけど、ぽろっと漏らしてくれた それより未来の自分に同期してみた方が…あっこれも禁則か 「あなたの禁則事項がまた増えた」 長門はそう言ってかすかに頬を染めた 俺の長門観察日記に新しいページが加わった 長門…ついにお前は…… 笑ったな 「…それも禁則」 俺の心の中の重い物がいっぺんに消えていった 昨日と言うか今日の早朝、朝比奈さん(大)に問い詰められて初めて気付いた事だったが、長門はそれを笑って受け入れてくれた これでよかったですか?未来の朝比奈さん あとは長門の好きなようにさせればいいんですよね 俺はハルヒと2人で優しく見守ってやりますよ もちろん悪い虫がついたらハルヒが容赦しませんから 新しく芽生えた感情に戸惑う長門の横顔を眺めながら、俺は少し眠ろうと思った 今日はハルヒも来ないし、わずかな平和を楽しまないと そう思っているとカチャリと扉が開いた 「やあどうも。昨日は遅くまですみませんでした」 古泉はいつもの笑顔で俺に笑いかけ、次いで長門にも笑顔を向けた 「……こんにちは」 「こんにちは長門さん。おや?涼宮さんは?」 学校には来てたけど部活は休むって言ってもう帰った 「そうですか、涼宮さんもきっとお疲れなんでしょう 我々と違って、彼女にとっては全てが初体験の世界でしたからね あちらのチームSOSと対決してあらためて考えたのですが 我々ももっと早い段階で涼宮さんに全てを告げておくべきだったのかもしれませんね。 今ごろになってそう考えます」 おい古泉 どっちが後始末が大変なのか分かっての発言なんだろうな 俺やお前はそれでいいかもしれないけど朝比奈さんはどうするんだ? ハルヒが思いつきで適当にいじった過去を修正しに飛び回る苦労を考えたら 俺には決していい方法だとは思えん 「冗談ですよ。ところで妙な噂を耳にしたのですが」 またかいお前 せっかく世界がつかの間の平和に戻ったのに さては緑色の火星人が素っ裸で攻めてきたとか? 「いえいえ、もう少し小さい話題です 実は今日の昼休みの事ですがね、とあるクラスでとある男子生徒が 後ろに座っている、真っ赤な顔をした女子生徒と向かい合わせで 彼女の手作り弁当を楽しそうに食べていたと」 ぐっ もうそんな噂が流れてるのか 「はいそれはもう 学校中を矢のような速度で駆け巡りましたよ まさに今世紀最大のニュースです 今ごろ男子生徒の半数がホームセンターで五寸釘を買い集めているでしょうね それに国内の藁の供給が追い付くかどうか、はなはだ不安でもあります かくいう僕も、帰りにホームセンターに寄らないと 一応知り合いを当たってはみますが、この時期に藁など手に入りますかどうか」 ふん 好きに言ってくれ あの…まさかとは思うけど 長門も知ってるのか? 「……知っている。学校中が動揺している 面白がっている者が教師も含めて239名、驚いてるのは345名、悲しんでいるのは…」 分かった長門、もうやめてくれ はあ… やれやれ クソ古泉はいまいましい笑顔を振りまきながら長門と目配せをしている 長門は古泉に優しい目を向け、頬をほんのりピンクに染めた ダメだこりゃ 俺の居場所がない もう帰ろうかな俺 リンク名 エピローグに続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/506.html
涼宮ハルヒの入学 version H 涼宮ハルヒの入学 version K
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1608.html
(この話は長編・涼宮ハルヒの恋慕、閑話休題の続編です) 優曇華の花というのをご存じだろうか。 芭蕉の花やクサカゲロウ類の卵のことではなく、インドの伝説上の花のことだ。正式な 名称は……確か、優曇波羅華──うどんはらげ──だったかな。 三千年に一度花開き、そのときには如来菩薩や金輪明王など、転輪聖王が現れると言わ れている花。霊瑞、希有の例え。分かりやすく言えば「滅多に起こらない吉兆」として使 われている。 優曇華の花は「希有」なこと。そして、「滅多に起こらない吉兆」だ。 何でオレがそのポイントを強調して、こんな話を長々としているのかと言えば、希有の 文字に注目してもらいたいからに他ならない。 希有はひっくり返せば有希となる。 ああ、そうだな。長門の名前になるわけだ。 三千年に一度、あるかないかという「いいこと」が逆になれば、それはつまり、三千年 に一度あるかないかという「悪いこと」。 ここまで話せばおわかり頂けると思うが……長門が滅多にやらないことをすれば、悪い ことが起こるんじゃないのか、とオレは思ってしまったわけだ。 事実その通りなのだから、オレのくだらない言葉遊びもバカにできない。 それに気づいたのは、女同士のケンカに巻き込まれて世界崩壊を食い止めたりすること もなく、部室には全員が集まり、オレは古泉が持参したカルカソンヌを延々とプレイし続 けていたある日のこと。 頭を使うことに疲れたオレが、朝比奈さんの淹れてくれたお茶に手を伸ばしたとき、ふ と視界の片隅に長門の姿が目に入った。 この寡黙属性付随の読書好き美少女型アンドロイド(オプションの眼鏡は破損済み)は、 新書程度の厚さなら1時間程度、ハードカバーで文字がびっしり書き込まれている本でも 3時間あれば読破することをオレは知っている。 にもかかわらず、ここ最近は同じ本ばかりを読んでいた。どこの国の言葉かわからない 原本を読んでいるっぽいが、長門が言語を理解するのに苦しむとも思えない。ロンゴロン ゴ文字だろうと解読できるはずだ。 もしかすると、その本の内容が気に入って何度も読み返しているのかとも思ったが、そ れもなさそうだ。 ページをめくる速度が遅い。 まるでメトロノームのように規則正しく一定速度でページをめくっているのだが、その 間隔がいつもより遅い気がする。 そして、最初は気のせいだと思っていたんだが、誰もいないのに誰かに見られている気 配を、オレはここ最近感じていた。本を読むスピードが落ちている長門のことを考えると… …どうもオレは自分でも気づかずに、長門が読書を放棄してまで睨まなければならない ことをしてしまったようだ。 まいったね。 これこそまさに優曇華の花が咲くというものじゃないか。いや、逆だから優曇華の花が 散るということになるのか? どっちにしろ、長門が読書を放棄してまで他人を注視する など、滅多にないことだろう。滅多にないといえば、ちょっと前に額にキスもされたっけ。 その睨む対象になっているオレと言えば、長門がそんなことをする理由に思い当たる節 が山のようにありすぎて、考えるのも億劫になる。ことある事に長門の手を借りて、そり ゃ長門にしてみれば「いい加減にしてくれ」と思うかもしれない。 けれど極端に口数の少なく、言語での情報伝達には慣れていないあいつは、文句の1つ でも言いたいのに言えず、睨むしかできないのかもしれない。 なんだか知らんが、とにかく帰りに長門に謝っておこう。そう思っていたんだが……。 「ねぇ、有希。今日はあたしと一緒に帰りましょ」 何故に邪魔をするんだハルヒ。空気読めよハルヒ。おまえがアクションを起こすタイミ ングは、オレにとってはいつもバッドタイミングだぞ? 「何よ、あんたも一緒に帰りたいの? でも、だ~め。女同士の大事な話があるんだから。 後ろから着いてきたりしたら、16連射でスイカみたいなその頭をたたき割るからね!」 おまえはどこのゲーム名人かと問いつめたくなるが、まぁいいさ。長門がオレを睨んで くる理由もわからんし、理由もわからず頭を下げるの誠意がこもってない気がする。 今晩、その最たる理由を思い出して、明日謝ればいいさ。 だからハルヒ、おまえは空気を読めと何度オレに思わせれば気が済むんだ? 「なによその顔。いつも谷口や国木田とばかりじゃ、むさ苦しいと思って言ってあげてる んだからね。それを無下に断るなんて、あんたも偉くなったもんねぇ?」 弁当を食う前に長門のところに行って謝ろうと思っていた矢先のことだ、昼休みを告げ る鐘の音とともに、背後から団長さま直々に昼食のお誘いがあったわけだ。 「おまえ、いつも学食じゃないのか?」 「たまには気分転換よ。どんな美味しいものでも、毎日食べてたら飽きちゃうじゃない」 そりゃそうだろうが、そんなこと言うと学食のおばちゃんが悲しむぞ? オレは知ってるんだ。北高にハルヒが入学して、唯一喜んでいる人が学食のおばちゃん だってことを。ハルヒが入学してから、食材が余らなくなってるらしいからな。 「そんなとってつけたような話はどうでもいいから、とっとと行くわよ!」 結局、断ることも出来ず、谷口と国木田の憐れむような視線に見送られて、オレは首根 っこを引っつかまれて中庭まで連行されてしまった。 ここで何故、中庭なのか甚だ疑問に思うところだ。部室に行けば、朝比奈さんがいなく てもお茶くらい飲めるだろうに。 「何言ってるの、こんなに天気がいいのよ? 教室の中でちまちま食べるより、よっぽど 健全よ。下北半島までピクニックに行きたい気分だわ」 そんなところまで行ったら、おまえは恐山に行きそうだからオレは謹んで辞退しよう。 それにしても、今日のハルヒは妙だ。テンションが高い低いとか言う以前に、ここまで オレに絡んでくるのは滅多なことじゃない。 そりゃSOS団の(胸を張れる肩書きじゃないが)雑用係たるオレ。団長さまからのお 達しが多いのも事実だが、ぶっちゃけると使いっ走りの類がほとんどだ。……改めて思う と、ひどい扱いだな……。 ともかく、ハルヒがオレとこうやって2人で行動することは、意外と思われるが稀なこ となのだ。いつもはSOS団のメンバーが誰かしら最低もう1人はついてくるし、命令を 出しもこいつは1人で勝手に突っ走る。 かくいうオレはオレで、ハルヒが巻き起こす厄介事から少しでも離れるために、あるい は古泉や長門に任せるくらいなら自分がやったほうがいいと思って、くだらない命令でも 受諾して1人で寒空の下、ストーブを取りに行ったりしているわけだ。 それが、オレとハルヒの丁度いい距離なんだと思っている。 遠からず、近からず。 こいつと一緒に行動するなら、絶妙な距離感を保ち続けることがコツかもな。 「ね、あんたのお弁当って誰が作ってるの?」 ぼんやりそんなことを考えていると、ハルヒは自分の弁当に手をつける前にそんなこと を聞いてきた。 「誰って、お袋しかいないだろ」 「前々から思ってたけど、けっこう美味しそうね。ちょっと頂戴」 「そりゃ別に構わんが」 オレはてっきりおかずの話だと思って弁当箱を差しだしたんだが、ハルヒは丸ごと奪い 取りやがった。オレに何も食うなと言うのか、おまえは。 「じゃあ、あたしのお弁当あげるわよ。それならいいでしょ」 オレの弁当の代わりに差しだされたハルヒ弁当は、豪快におかずが詰め込まれた幕の内 弁当みたいな代物だった。味は申し分ない。いや、かなり美味い。ハルヒの料理の腕前は 某クリスマスの鍋パーティで実証済みだが、ハルヒ母も料理が上手なんだな。 「何言ってんの? それ、あたしが自分で作ったの。あたしの手作りなんだから、感激に むせび泣いて食べなさいよ」 ああ、そうなのか。それなら、この豪快な味付けも納得だよ。だがおまえは、オレが嗚 咽を漏らして弁当を食う姿が見たいのか? そういえば、この中庭から文芸部の部室の窓が見えるな。いつも昼休みに部室にいる長 門だ、今もいるのかもしれん。いつも窓際に座って本を読んでいるから、もしいるなら一 目でわかると思うんだが……。 「ちょっとキョン、どこ見てんのよ」 ハルヒの怒声で、ふと我に返った。最近、ボーッとすることが多くなってる気がする。 マヌケ面と言われても仕方がないかもしれん。 「いや、別に」 「ふん、そんなにゆ……」 言いかけて口を閉ざし、息を吐く。 「部室が気になるの?」 なんでオレが部室を気にしなけりゃならんのだ。部室棟がフランク・ロイド・ライトの 作品だってなら話は別だが、十把一絡げの建築物に興味はないぞ。 「……あんたさ、気づいてる?」 「なにが?」 「有希があんたのこと……」 もしやハルヒ、長門がオレのこと睨んでるのに気づいてたのか? 長門や朝比奈さん、 古泉の正体には気づかないくせに、妙なところで鋭いヤツだからな……気づかれていても おかしくはないか。 「ハルヒも気づいてたのか」 「そりゃあたしは団長だからね。団員のことならなんでもお見通しよ」 それはまた、頼もしいな。そういえば、昨日の帰りに急に長門と一緒に帰るとか言い出 したのも、そのことが原因なのか? 「ま、鈍感なあんたでも、さすがに気づくのね」 「いつもと明らかに違うからな」 「それで、あんたどうするつもり?」 「どう……って」 ハルヒが珍しく気を遣ってくれているようだが、よく考えれば、これはオレと長門の問 題だ。ハルヒは関係ないだろ。 目の前にいるどっかの誰かと違って、自分に非があれば素直に頭を下げるオレだ。 けれど、だからといって関係ないヤツにまで、自分が頭を下げることを吹聴するほど、 プライドの低い男でもないぞ。 「別にいいだろ、後で長門と話をしてくるつもりではいるんだ。邪魔しないでくれ」 「よかないわよ!」 「なんで?」 即座にツッコミ返されるとは思っていなかったのか、ハルヒが珍しく口ごもる。 「そ、そりゃあたしは団長だもの。団員同士の……その……そういうことは、ほっとけないの!」 そういうのは単なる野次馬根性だと思うんだが、わざわざ教えてやるのもアレだな。理 由は不明だが、今のハルヒが醸し出す雰囲気的に殴られそうだ。 「わかったよ、おまえや朝比奈さん、古泉に迷惑かけるようなことはしない。だからとり あえず、長門と2人で話をしてくるよ。ちゃんと丸く収めてくるさ」 「丸く収めるってあんた……」 おいおい、なんでオレが丸く収めるって言ってるのに、怒ってるような悲しんでるよう な微妙な顔をするんだ。そんなにオレは信用ないのか? 「……もういいわよ! このっ……バカキョンっ!!」 何故にオレが罵倒されねばならんのか皆目見当もつかないが、叫ぶや否や、ハルヒは1 人勝手にどこかへ行ってしまった。 なんなんだろうね、あれは? 昼休みが終わった5限目、いつもは昼食後の惰眠を貪っているハルヒの姿はなかった。 何のつもりか知らないが、あいつが授業をサボるとは……また、ロクでもないことを企ん でいるんじゃないかと勘ぐってしまう。 厄介なことが起こる前に食い止めておくか……と考えた6限目前の休み時間、教室に思 わぬヤツがいつも通りの無言で現れた。 「ど、どうしたんだ長門?」 こいつが1人で、しかもオレの教室までやってくるとは珍しい。部室でも睨まれている ことも考えると、妙に腰が引けてしまう。 などと、そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、長門はたった一言「きて」と言って、 同意を得ずに教室から引きずり出した。おまけに連行された場所は部室だ。単なる休み時 間なんて、10分しかないのに部室棟まで引っ張って行くとは、どういう了見だ? 「涼宮ハルヒのこと」 ああ、ハルヒ? あいつだったらどっかに行っちまったぞ。あいつに用があるなら、オ レを呼び出しても居場所なんて見当もつかないんだがな。 「それと、あたしのこと」 ……まて、その言い回しはどっかで聞いたことがあるぞ。 あれは……そうそう、長門のマンションで自分の正体を明かしたときの言い回しそのま まだ。その後、延々と自分の親玉について語ってくれたな。詳しい内容は、残念ながら覚 えてないが。 どちらにしろ、そのときのことと今のこの状況が妙に重なる。既視感を感じるほどに。 長門はオレをジッと見つめながら、ただ一言だけを呟いた。 「涼宮ハルヒは嫉妬している」 6限目開始を告げる鐘の音が、遠雷のように聞こえた。 オレがその言葉の意味を理解するのを待っているかのように、長門はオレの様子を探る ように見守っている。もっとも、いくら待ってもらったところでオレがちゃんと理解でき るはずもない。 ハルヒが嫉妬してるんだぞ? 誰に? 何で? そもそもあいつが嫉妬するような繊細な心を持っているとは、想像もできない。嫉妬す る暇があったら、何かしらの行動を起こすタイプじゃないのか? 「涼宮ハルヒは、あなたがわたしに1人の異性として恋慕の情を抱いていると思いこんで いる。彼女が嫉妬している対象は、わたし」 「ちょっと待て。待ってくれ。なんでそういう話になってるんだ? なんでハルヒはそん な風に思ったんだ?」 「決定的なのは今日の昼食時」 長門の話によれば、ハルヒが今日、わざわざ自分で弁当を作ってまでオレと昼飯を一緒 にしたのは、オレが長門のことをどう思っているのか聞き出すためだ、とのこと。 とは言うが、どう思い返してもハルヒがオレにそんなことを聞いてきた覚えが……あ れ? いやいや、ちょっと待てよ……。 もしかして、あの会話がそうだったのか? オレが長門に睨まれて、そのことをハルヒ も気づいてて……って、あれはもしや、ちゃんと会話が成立していたように思えて、実は ズレてたのか? 「そう」 ……どこかに自動小銃でも落ちてないか? 今すぐこの頭をぶち抜きたいんだが……。 「あなたは今すぐ涼宮ハルヒの誤解を解くべき」 長門はきっぱりそう言い切って、口をつぐんだ。 確かにそういう理由なら、さっさとハルヒの誤解を解いておいたほうがいい。何しろあ いつは、冬にオレと長門に何かあったと思うや否や、ちょこっと言葉を交わしただけで既 成事実にまで発展させるようなヤツだ。このままじゃ、オレと長門の間に子供までいる、 という話になりかねない。 しかし……ふと思う。 何かが引っかかるんだよな。冬の雪山でハルヒがオレと長門を疑ったときと、今の状況 では、何か据わりが悪い。スッキリしないというか、ハッキリしないというか……。 「……ああ、そうか」 切っ掛けだ。長門の話も、ハルヒの嫉妬も、あまりにも唐突すぎる。どうしてそうなっ たのかが語られていない。主語がない会話をしている気分だ。 「長門、昨日おまえ、ハルヒと2人で帰ったよな? そのとき、何を話したんだ?」 「…………別に」 なんだよ、その間は? 即時即答するおまえらしくないじゃないか。 「本当か?」 肯定も否定もせず、長門は黙ってオレを見つめていた。その表情からは、このオレをも ってしても感情を読み取れない。まるで初めて会ったときのような能面っぷりだ。 「まぁ、ハルヒとちょっと話をしてくる。あいつがどこにいるか、」 「忘れて」 オレの言葉を遮ってまで、何を「忘れて」だって? 「今の話」 「なんだよ急に。どうしたんだ?」 「……気にしなくていい」 その一言を残して、長門はオレに背を向けて部室から出て行った。 もしかして……あいつ、本当に何か怒ってるんじゃないのか? ハルヒの嫉妬の話といい、長門の豹変振りといい、はっきり言ってオレの許容範囲を遙 かにオーバーしている。何がどうなっているの考えるために、そもそも授業なんか受ける 気分にもなれず、6限目はサボって部室であれこれ考えていた。 いったいどこで、こんな状況になったんだ? 何が切っ掛けでハルヒは嫉妬し、長門は 豹変したんだ? 切っ掛けがわからなければ手の出しようがないじゃないか。 「おや、あなただけですか」 ノックもせずにドアを開けて、古泉がやってきた。朝比奈さんが着替えをしていたらど うするつもりだったんだ、おまえは。 「いえ、朝比奈さんから言伝を授かっておりまして。今日は鶴屋さんにお茶の席に誘われ ているのでこちらには来られない、と。涼宮さんと長門さんもまだですか?」 「2人は……どうかな、今日は来ないんじゃないか?」 「それはまた、珍しいこともありますね」 ……そうだな、こいつに話をするのは癪だが、オレ1人では結論が出そうにない話だし、 頼れる長門が問題の対象だしな。1人であれこれ考えるより、こいつの意見を聞くのも悪 くない……か? 「なぁ、古泉」 「なんでしょう?」 「実は長門のことなんだが……」 「ああ……ようやくですか」 「ようやくって、何のことだ?」 「え? ……ああ、なるほど」 おいおい、何を1人で勝手に納得してるんだ。分かるように説明してくれ。というか、 その呆れたような笑みはいったいなんだ? 「いえ、あなたは相変わらずだと思いまして。どうです、最近は頭を使うゲームばかりで したからね、別なゲームでもしませんか?」 「そういう気分じゃない」 「まぁ、そう言わずに。そうですね、ババ抜きでもしますか」 おいおい、2人でババ抜きなんて、あまりにも寂しすぎやしないか? つーか、人の同 意を得ずにカードを配るなよ。 「さ、どうぞ」 ……わかったよ、相手すればいいんだろ。 こいつのゲーム狂いはもう病気のレベルだな。それに付き合うオレもオレだが……カー ドの山に手を伸ばし、組になっているカードをさっさと捨ててみれば、手元に残ったのは わずか10枚。古泉の先攻で始まった。 「ところで」 黙々とゲームを進めている中、不意に古泉が口を開いた。 「長門さんが、どうしてあそこまで無感動、無感情を貫いているか、考えたことはありますか?」 「いや、そういうもんなんだろうとしか思っていないが。何か理由でもあるのか?」 「僕の憶測でよければ、思い当たる節がありますね」 もったいぶらずに話をすることができないのかね、こいつは。 「彼女が情報統合思念体の穏健派だから、ではないでしょうか」 意味がわからん。 「朝倉涼子のことを……聞くまでもなく、覚えていると思いますが」 忘れられるなら、いい方法を教えてくれ。 「彼女は情報統合思念体の強硬派に属していました。つまり、自分たちの手でアクション を起こして涼宮さんの変化を見る派閥です。一方、穏健派の考えは、ただ涼宮さんを観察 し続け、極力手を出さないようにすることです。しかし、ただ『観る』というのは、これ が難しいものですよ。観察対象に情が移れば、正確な観測はできない」 「そういうもんかね?」 「僕とあなたの関係に例えてみましょう。今こうしてカードゲームに興じていますが…… 仮に、僕があなたに熱烈な愛の告白をしたとしましょう。あなたはどうしますか?」 「全速力で逃げ出すね」 「そうですね。いやあ、喜んで受け入れると言われなくて助かりました」 蹴りと拳のどっちを選ぶか、その選択肢くらいは与えてやる。可及的速やかに選べ。 「冗談ですよ。ともかく、感情のせいで現状に変化が訪れてしまうわけです。穏健派はそ れすらもよしとせず、自分たちの介入なく涼宮さんの変化を観測したかったのでしょう。 だから……」 「長門がハルヒに肩入れしないために感情を排除した……ってか? けれどあいつは」 「そうですね、初期のころに比べて大きく変化しました。少なからず、感情があるからで す。喜怒哀楽なくして、社会の中で他者とコミュニケーションを取ることは不可能ですか らね。彼女が人間とコミュニケーションを取るためのインターフェースなら、感情は少な からず必要です。ですから、長門さんには必要最小限の感情があったのでは、と思います。 そして、それを育てたのはあなたですよ」 「……オレが?」 「そうですよ」 オレが長門に何をしたっていうんだ? むしろオレの方がいろいろ助けられているじゃ ないか。それは古泉にだってわかっているはずだ。 「長門さんは、自分の口で正体を明かしているのはあなただけですね」 「そう……かな? そうだな、おまえが聞いてないなら、朝比奈さんも聞いてないんじゃないかな」 「僕は聞いていません。では何故、あなただけなのでしょうか?」 「あいつが言うには、オレはハルヒにとっての鍵だから、とか言っていた。だからじゃないのか?」 「それだけではないと思います」 「何故?」 「彼女はありのままの涼宮さんを観測する役目だからです。涼宮さんに変革を与えるかも しれないあなたを、涼宮さんから遠ざけたいと長門さんが、あるいは穏健派の情報統合思 念体が考えてもおかしくはないでしょう。普通に考えてください。突然、自分が宇宙人に 作られたアンドロイドだ、などと告白したんですよ? 普通は距離を置くものじゃないで しょうか。しかもその後に朝倉涼子に命を狙われて、生命の危機にさえ遭っている」 あ~……確かに。改めて言われると、オレは普通の高校生らしからぬ出来事に遭遇して いるにもかかわらず、平然としすぎてる気もするな……。 「あなたは今日に至るまで、何も変わらずに長門さんと接しています。そこでこう思うわ けです。何故、あの人はここにいるのだろう。普通に接してくれるのだろう……と」 自説を饒舌に語る古泉を、オレは黙って見つめた。反論するにも、いい言葉が思い浮かばない。 「疑問というのは、自己の目覚めですよ。胡蝶の夢です。そこから長門さんは、個人的に あなたに興味を持つようになった。そして……ここまで言えば、如何にあなたでもおわか りになるでしょう。ご理解して頂けましたか?」 理解はしたさ。けれど、どうせ憶測だ。それが正しいというわけじゃないだろ。 「そうですね、憶測です。憶測ついでに、もうひとつ」 「なんだ?」 「長門さんは、自らの行動で変化が起こることはできません。第三者の後押しが必要です」 きっぱり断言したな。その根拠はなんだ? 「思い返してください。これまで僕たちが遭遇した事件で、長門さんが自ら進んでアクシ ョンを起こしたことがありますか?」 「……カマドウマ事件は?」 「あれは、正確には喜緑さんが持ち込んだものです。当時は彼女がインターフェースと判 明していなかったため、あなたも「長門さんが仕組んだことか?」と思ったのでしょうが、 もしかすると喜緑さんの発案で、長門さんは協力しただけかもしれません」 「コンピ研との勝負は?」 「最終的に長門さんをけしかけたのは、あなたじゃないですか」 「じゃあ、12月18日の出来事はどうだ」 「あれはエラーが積み重なって起こった、いわば不慮の事故です。その証拠に、長門さん は現状回帰をあなたに託していたのでしょう?」 ことごとく反論されたな。言われてみれば、長門が自分の意志で行動を起こしたことは 何も思い浮かばない。いつもオレが面倒を持ち込んでいたんだな。 「長門さんは自分からアクションを起こすことはない。ですから、彼女が何かを起こそう としているならば……それはこちらから手を差し伸べるべきです。いい加減、気づいてあ げたら如何です?」 古泉は、手元に残っていた2枚のカードを表にして並べた。 ジョーカーとハートのクイーン。オレの手元にはスペードのクイーンが残っている。 「これでも、僕はあなたに感謝しているんですよ。ですから、今回ばかりはゆっくり休ん でいただきたいとも思っています。ですが、あなたはすべてを丸投げにして傍観できる人 ではないことも分かっています。どちらを選びますか?」 2枚のカードをコツコツ叩く古泉は、いつになく真剣な目をオレに向けていた。この野 郎、オレを試すなんざ100年早い。 「決まってるだろ。おまえにゲームで負けるつもりはないんだ」 「手抜きをされては困ります。部室の戸締まりは、僕がしておきましょう」 嫌味なくらいの笑みを浮かべる古泉へ、オレはテーブルの上にスペードのクイーンを叩 きつけて部室から飛び出した。 あてがあったわけじゃない。ただ、どこへ行けばいいのかは、なんとなく分かっていた。 平日の、それも閉館間際の図書館。職員以外に人の姿はなく、ただ1人だけ、置物のよ うに髪の毛1本動かさず、ただページをめくる指だけを規則正しく動かして椅子に座り、 本を読んでいる少女の姿があった。 オレは黙って長門の横に腰を下ろした。長門は、そんなオレに気づかないかのようにた だ、黙々と本を読み続けている。 「長門」 「……なに?」 たっぷり時間を空けて、長門は返事をしてくれた。それでも、オレを見ようとはしなかったが。 「なんつーか……悪かった」 「あなたは何も悪くない」 「……そうか」 「そう」 パタン、と本を閉じ、図書館の奥に消える。オレはその姿を黙って見つめて、戻ってく るのを待った。 本の壁の間から姿を現した長門は、そのままオレの横を通り過ぎて外へ向かう。オレも 黙ってその後に続いた。 どこへ向かうというわけでもなく、オレたちは自然といつもの公園に来ていた。長門に してみれば、ここからすぐに自分のマンションへ戻るつもりだったのかもしれない。 「少し、いいか?」 長門の歩みが止まる。振り返りこそしなかったが、立ち止まったということは、それが 了承の合図なのだろう。手を伸ばせば届きそうなくらい近くにある小さな背中に向かって、 オレは口を開いた。 これは、オレから言わなければならないことだと思う。古泉に長々と説教されてようや く気づくとは、オレもよくよく鈍感だと思うさ。 「前に……ハルヒと朝比奈さんがケンカした時があったじゃないか。あのとき、大人の朝 比奈さんが言ってたことなんだがな、恋愛感情には2種類あるそうだ」 朝比奈さん(大)曰く、『愛』というのは家族や友人に向ける広い思いで、『好き』と いうのは1人に向ける一途な想い、ということだ。オレも正確に理解しているわけではな い。けれど今なら、朝比奈さん(大)が言いたかったことがわかる気がする。 「そういう意味で言えば……そうだな、オレはおまえを愛してるというより……好きと言 ったほうがいいのかもしれない」 長門は、かろうじて振り返ったと言えるか言えないかという程度に顔を横向けた。 目は見えない。表情もわからない。ただ黙って立っている。 「でも……な、それとも違うような気がするんだ。オレはお前に側に居て欲しいと思って いる。離れたくないとも思っている。そりゃ、それは朝比奈さんや古泉に対しても同じだ が、もっとそれ以上の……なんて言うのかな、それは好きとか嫌いとかで語れるもんじゃ ない想い……かな」 ああ、くそ。今ほど自分のボキャブラリーの無さを嘆くべきだ。胸の奥ではハッキリし ているのに、それを相手に伝えるべき適切な言葉が思い浮かばない。伝えたい気持ちを伝 えられないのが、これほど苦しいと思ったのは初めてだ。 「だから……」 「いい」 どう言えばいいのか分からず、ただ闇雲に言葉を重ねるのを制するように、長門の冷た い両の手がオレの頬に添えられる。 「言語での情報伝達に齟齬が発生するのは仕方がないこと。でも……あなたの言葉はわた しに力を与えてくれる」 「長門……」 「わたしは、あなたと出会う切っ掛けを与えてくれた涼宮ハルヒに感謝をしている。そし て、あなたに出会えたことが嬉しく、芽生えた気持ちを誇りに思う」 オレを見つめる長門の漆黒の瞳が、微かに揺れる。 そして、夜風にかき消されてしまいそうな小さな声でただ一言だけ──。 「わたしは、あなたが好き」 小さくとも、オレの耳に届いたのは揺るぎない凛とした声。 「それが、わたしが『私』として存在していることを証明する言葉。それが叶わぬ思いで あることはわかっている。あなたが切に思う人が誰かもわかっている」 口を閉ざし、長門は少し迷うような素振りを見せた。たぶん、言いたいことを言葉に出 来なかったさっきのオレの姿も、今の長門と同じだったのかもしれない。 「でも……それでも構わない。あなたは、わたしが側にいることを許してくれた。わたし がいつまで自律活動を続けていられるか、それはわからない。それでも、最後が訪れるそ の時まで、わたしはあなたの側にいたいと思う」 長門の瞳から、ただ一滴だけ涙がこぼれる。長門が初めて見せる、感情の吐露。 嗚咽するわけでも、号泣するわけでもない。長門らしいその涙を……オレは止めること も、ぬぐってやることもできない。 「ありがとう」 その言葉を長門から聞いたのは、これで2度目だ。けれど、前のときの平坦な声ではな く、その声はどこか力強いものを感じた。 ス……ッと、オレの頬を包んでいた長門の手が離れ、背を向けて歩き出す。抱きしめた い衝動に駆られたが、それはやっちゃいけないことだ。 ただ、これだけはいいだろう。この言葉だけは、言わなければならない。それがオレと長 門の絆であり、長門が望む平穏な日常なんだと思う。 「長門、また……明日、部室でな」 気の抜けた思いで自転車を止めていた駅前まで1人歩いていると、見知った黄色いカチ ューシャ頭が、アヒル口で所在なげに立っていた。 なんだろうな。なんなんだろうな。どんな気分の時でも、こいつの顔を見るとホッとす るのは、いろいろな意味で末期かもしれないな。 「こんなとこで何やってんだ? ナンパ待ちか?」 「んなわけないでしょ。ほら、これ」 ハルヒは投げ捨てるようにオレの鞄を放り投げてきた。そういや学校に忘れっぱなしだったな。 「わざわざ悪いな」 「別に。みくるちゃんに頼まれたから仕方なくよ」 朝比奈さんに……? ああ……古泉め、すべて思惑通りってわけか。何が「朝比奈さん から言伝を授かってます」だ。裏でコソコソされるのは気に入らないが……今回ばかりは 大目に見てやろう。 「で、どうなの?」 唐突だな。 「どう、とは?」 「有希と会ってたんでしょ? いいわよ別に。有希もあんたのこと好きとか言ってたし」 なんでそんなことをこいつは知ってるんだ? 「なんか最近、有希がずっとあんたのこと気にしてるみたいだったからさ、昨日、一緒に 帰って問いただしたのよ」 なんとも団員思いな団長さまだ。わざわざ気に掛けていたとはね。 それにしても、古泉やハルヒが気づくほどの熱烈な視線を、長門はオレに送っていたっ てことか? それに気づかなかったオレは……マジで首をくくるべきかもしれん。 「あたしだって鬼じゃないわ。SOS団は原則恋愛禁止だけど、」 「ああ、フッた」 「でも有希となら……は?」 おいおい、近年希にみるマヌケ面だな。ケータイのカメラで取ってSOS団のホームペ ージにアップしといてやろうか。 「フッたというか、オレと長門が釣り合うわけないだろ。オレにはもったいない」 「あ~……そう、そうなんだ……」 なんだよ、その曖昧な反応は。もっとこう、怒るか喜ぶか、ハッキリした態度を見せてくれ。 「でもまぁ、安心しろ。だからと言って、オレと長門の関係が気まずくなったわけじゃない。 明日からも長門は、部室で静かに本を読んでるだろうさ」 「あ、当たり前でしょ! あんた、自分で言ったんだからね。丸く収めるって。これで有 希がSOS団から抜けるとか言い出してみなさい、あたしがあらゆる手段を使ってあんた と有希をくっつけてやるんだから!」 「なんだそりゃ?」 「なっ、なんだっていいでしょ! それよりも、雑用係のくせに散々あたしを振り回した 挙げ句に有希をフッて、そのままで済むと思ってるんじゃないでしょうね!?」 何を言い出すんだおまえは。勘弁してくれよ。こう見えても、オレはオレでちょっとへ こんでるんだぞ? そこへさらに追い打ちをかけるというのか。 「うっさい! きっついのぶちかましてあげるから、目ぇ閉じなさい」 「……また今度にしないか?」 「あたしの言うことが聞けないっての!?」 ヤバイ。今のハルヒはヤバイ。やると言ったらとことん殺る目だ。 仕方なく、オレは目を閉じる。目を閉じたもんだから、ハルヒが何をしようとしている のか、さっぱり分からない。 ネクタイを掴まれて、グッと引っ張られた。前のめりになって思わず目を開けそうにな ったその瞬間。 オレの唇に、暖かく柔らかいものが一瞬だけ触れてすぐに離れた。 「……は?」 驚いて目を開くと、目の前にはハルヒの顔。ほんのり頬を朱に染めているのは……気の せいだな。そういうことにしておこう。 「……どーよ、目が覚めたでしょ?」 「あー……ビンタより強烈だな」 「と、当然よ! 今まで誰にもしたことない、とっておきなんだからね!」 そうかい、そりゃ光栄だな。閉鎖空間でのことはノーカウントか……って、あれはハル ヒの中じゃ夢の出来事になってるんだったな。 「なぁ、ハルヒ。オレやっぱり、」 「えっ? 何、何なの?」 おいぃ……だから空気読めって。そこで急に顔を輝かせるなよ。そんな急かさないでく れ。まだ何も言ってないじゃないか。 「あ~……明日、な。また明日。じゃあな」 「ちょっ」 首を絞めるな。背中に乗っかってくるな。 「ちょっと、このバカキョン! また明日って、何それ? 意味わかんないわよ! この まますんなり帰れると思ってんじゃないでしょうね!? 言いたいことはちゃんと言わなき ゃダメって、あんたも言ってたでしょ!」 ええい、うるさい。それはおまえの夢の中の話だろ? オレは知らん。何も知らんぞ。 空気を読めないおまえが悪いんだ。 もう二度と、オレの方から「好きだ」なんて言ってやるもんか。 〆
https://w.atwiki.jp/totty0712hw/pages/4.html
日時;3月10日(日) 14;00~19;30まで 企画内容;minecraftの難易度ハードコアで誰がエンダードラゴン討伐までたどり着けるか? 参加条件; 1 マインクラフト所持者 2 ニコ生放送ができること 3 マインクラフトの放送ができること ルール; 1 難易度はハードコアのみ 2 シード値の指定なし 3 modはなし(ただしゲーム性に影響が出ないmod(たとえば、Opt FIneや影modなど)は使ってもよい) 4 バージョンは1.4.7のみ 5 マップの再生成はあり 6 放送外でのプレイは禁止 7 配布ワールドはなし 8 制限時間は14時~19時30分までの5時間半のみ 9 死んでしまった場合も制限時間内ならマップ再生成は可能 10 バックアップによる再復活はなし その他詳細; Q ジ・エンドまでいったのに制限時間過ぎたらだめなの? A 制限時間による是非はポータルを見つけてるかどうかで判断いたします ex)ポータルを見つけたが時間切れ→そのまま死ぬまで続行可能(ただし放送は続けなければいけない) ポータルを見つけていないし時間切れ→続行不可能 Q ポータルを見つけるのはエンダーアイ以外は駄目なの? A mod以外ならOKといたします。 Q ニコニコ以外でなら生放送できるのだけでも無理ですか? A 基本ニコ生で放送しているので他の配信サイトでの放送は認められません 参加者一覧 ・とってぃ ニコ生;http //com.nicovideo.jp/community/co1618525 twitter;https //twitter.com/totty0712 youtube;http //www.youtube.com/user/Crouch0712?feature=mhee ・白猫 ニコ生;http //com.nicovideo.jp/community/co1890177 twitter;https //twitter.com/shironekoko0220 youtube;http //www.youtube.com/user/TheShironekoko ・岸田 ニコ生;http //com.nicovideo.jp/community/co1815082 twitter;https //twitter.com/Ksd_yumu youtube;http //www.youtube.com/user/kishida03yumu